市場の食糧売り場。コメ、トウモロコシ、小麦粉が並んでいる。(2010 年6 月平安南道 キム・ドンチョル撮影)

二〇一一年四月現在、北朝鮮の中から伝わってくる民衆の窮乏ぶりは凄まじいの一言である。「配給食糧の不足から、軍部隊内で栄養失調が蔓延して、脱走者が増えている」、「一日中ジャンマダン(市場)に座って商売しても、儲けで買えるのは白米五〇〇グラムにしかならない」、「一秒も電気が来ない日も頻繁で、水道も出なくなった」、「自殺者とコチェビ(浮浪者)が増え餓死者も出ている」など。

編集部では、現時点での経済、社会の混乱は、二~三〇〇万人の死者を出したと推定される九〇年代後半の「苦難の行軍」期に次ぐひどさだと推測している。この経済混乱の深度、広がり、原因を内部情報からあぶり出したいというのが、この特集の意図である。超インフレや対中国元交換レートの推移を統計化し、それを人々の実際の暮らしの証言で編み上げるように整理して、経済混乱の実像に迫りたい。

長期内部調査 超インフレの発生、その要因を探る 1
整理 石丸次郎/リ・ジンス

はじめに

◎「貨幣交換」と経済混乱
北朝鮮の経済難は最近始まったものではない。しかし、それに加えて、二〇〇九年一一月に実施された「貨幣交換」(デノミ)措置によって、社会が大混乱に陥り、市場活動が低迷する一方で物価の高騰が続き、庶民の苦境はますます大変なものとなっている。この現状を分析するために「貨幣交換」とはそもそも何だったのかを確認しておきたい。

貨幣交換措置の主な内容
◆ 通貨ウォンを一〇〇分の一に切り下げる
◆ 一世帯あたり旧貨幣一〇万ウォンを、交換の限度とする
◆ 交換期間は一週間とする
◆ 一〇万ウォンを超えた金額は銀行に預ける。将来、国家財政にゆとりが出たら新紙幣で引き出すことができる
◆ 一人当たり新貨幣五〇〇ウォンの配慮金を分配する
◆ 国内外人、機関を問わず外貨の使用、外貨による取引を一切を禁ずる
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