偶像化の進行
金正恩は二〇代の「若造」である。まだ何の実績もない。一般の民衆が、金正恩について何も知らないのは当然のことだ。だからこそ、高齢で健康に不安のある金正日は権力継承作業を急いでいる。若い金正恩を崇拝の対象に祭り上げるために、偶像化、神格化のための偉大性の宣伝がこれまで、早いペースで進められてきた。

「軍内では、金正恩が偉大な軍事家だと宣伝されている。将軍様の息子だという身分を隠し、一般の庶民の息子として一〇年間軍で服務していたと教えている。三歳で車を運転し五歳で銃を上手に撃てるようになったというバカバカしい教養(教化)もしている」。
(一〇年一一月 キム・ドンチョル記者)

「四月の行事(金日成生誕節)で花火を組織するのも金正恩同志がしたし、軍の規律を強化する仕事もしていると聞いています」。
(一〇年七月 咸鏡北道延社(ヨンサ)郡から中国に越境してきた三〇代の農村女性)

「正恩がどれだけ優秀で、卓越した先見性を持っているか、人民班に講師が来て学習させられる。一一月終わりにあった講習では『正恩同志は三歳の時に車の運転を覚え、五歳の時には一人で清チョン津ジン市まで運転した』と言うんです。部屋の後ろの方で『三歳の子どもがどうやったら、クラッチに足が届くんだ』とつぶやくと、失笑が広がりました」。
(一〇年一二月 両江道の四〇代の農民女性)

北朝鮮で半世紀以上も続いてきた金日成と金正日に対する個人崇拝。その象徴が、あらゆる場所に掲げられている肖像画と、国民の左胸に付けさせる「肖像徽章」と呼ばれるバッジである。平壌に住む内部記者のリ・ミヨンは、一一年一月に新しいバッジを目撃したと、次のように伝えて来た。

「ある軍の高級幹部に見せてもらった新しいバッジは、金日成、金正日、金正恩の三人の肖像をあしらった横長のものだった。高級幹部と側近だけに配られたと聞いた。金正恩の肖像画は、間もなく配られるだろうという噂はあるが、現時点では役所などに掲げられているのは見ていない」。
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