金正日総書記の「現地指導」に随行し、平壌市内の野菜科学研究所を訪れた際の金正恩。(2011年3月 「わが民族同士」HPより)

金正日総書記の「現地指導」に随行し、平壌市内の野菜科学研究所を訪れた際の金正恩。(2011年3月 「わが民族同士」HPより)

インタビュー 労働党中堅幹部に聞く 世襲後継の現場
聞き手 パク・ヨンミン
以下は、中国に合法的に出国してきたある地方の党幹部(五〇代男性)へのインタビューである。彼の仕事は、党の方針を宣伝するために、道の津々浦々に出かけて行って党の方針を「講演」することだという。インタビューが行われたのは二〇一〇年夏の吉林省。したがって九月二八日に行われた労働党代表者会で金正恩が初めて公式の場所に姿を現す前である。聞き手は中国に居住する編集部のパク・ヨンミン。

金正恩は党の活動から地歩を固める
パク:四四年ぶりに行われる党代表者会の目的は何だと思いますか?
幹部:朝鮮には「後継者」という職責はありません。金正恩は軍では大将の位に就いていますが(注1)、党では何の職位も与えられていません。だから党中央委員会委員など、何か地位を与える必要があるのです。そうすれば、国内的に金正恩大将に全ての党事業を結集させようという意見が出てくるはずです。(後に)後継者として推戴(推挙)するために必要な制度的な装置といっていいでしょう。

パク:それでは党代表者会が終わり次第、金正恩が表舞台に現れると見ていいのでしょうか?
幹部:表舞台には(すぐには)出て来ないと私は思っています。まずは内部でそのような(後継者として推戴する)態勢を整え、外向きには公開しないと予想します。なぜなら金正日将軍の場合も、七三年に推戴された後、八〇年の党大会になってようやく表舞台に出てきたからです。そうして地盤を固めて八四年には朝鮮のすべてを自身に集中させ、父である金日成は報告を受けるだけになっていったのです。金正恩はまだ若いから、党内部でまず職位を定め、党の事業を彼に集中させていく手順を経るでしょう。

パク:朝鮮は何事にも軍隊優先の「先軍政治」を行っています。すると今は党よりも軍の方が強いのですか?
幹部:最近、金正日は「われわれが『先軍政治』を行っているからといって、軍が党の領導を離れたと考えている人がいるようだが、『先軍政治』というのは徹底的に党の領導の下で行われるものだ。だから、党を弱体化させるようなことがあってはならない」と発言しました。国防委員会(注2)の委員たちは皆、金正日の側近ですから力があります。

そのため、金正日はわざわざ「国防委員会の力が強くなりすぎてはだめだ。党の下につけ」と、国防委員会も党の領導を受けるようにしました。またこれも最近のことですが、「国防委員会を前面に出しすぎたから、党の権威が弱まった」と金正日が言ったというのです。

国防委員会優先になり、その結果、党の組織ががたがたになってしまいました。金正日は党の総書記も兼ねていますが、党の政治局の委員も党中央委員会の書記局の書記も今や二、三人しかいないでしょう。

国家を指導すべき党がこれではいけない、組織を整備する必要があるというのが、今回の党代表者会開催の理由の一つです(注3)。さらに、「先軍政治」を止めようという動きがあります。これもおそらく近い時期に......、今回の九月の党代表者会と関連して何かしらの決定があると私は見ています。

パク:それでは今回の党代表者会で金正恩は、党の中の重要な地位に就くと思いますか?
幹部:そうなるでしょう。

パク:金正恩の年齢(生年は八三年と八四年も言われる)が若いというのは、朝鮮の人たちの間ではどう受け止められていますか?
幹部:だからこそ、私のような者が宣伝事業をどれだけたくさん行っていることか......。「天下にあのような全知全能な人はいない、五歳の時に外国人とヨットで勝負をして勝った、それでいて謙虚な人柄だ」などという、全く誇張された話が上層部から伝えられて来るんです。

それをあちこちでどれだけ話をしたことか......。だからこそ、私は(正恩は当分)姿を現さないと思うんですよ。顔が出れば「ええっ? この人は本当にそんなにすごい人なのかな?」と思ってしまうのが人間ですから。いわば神のような見えない存在でなければならないのですよ。(周知の通り金正恩は姿を現し、国営メディアにも金正日と視察に同行する姿が度々映し出された。この点はこの幹部の予測は外れた。)

パク:金正恩の捏造された宣伝話を聞いた人々は、どう思っているのでしょうか?
幹部:気の合う人同士ではこう言います。「逆に考えればいい。全部反対の意味にとらえればいい」とね。私たち朝鮮の人民がこれまで、どれだけ国の言うことに騙されてきたか。もう人民は騙されませんよ。
幹部:不満は相当広がっているんでしょうか?
パク:私のような幹部職の者たちは、だいたい分かっています。今の地位を維持しなければ生き残れないから、分かっていながら従うのです。そんな考えの人が多いので、今やご機嫌取りだけが増えて、心から自国の人民のことを思っていた人は皆追い出されてしまいました。「今は大変だけどなんとか耐えて、我慢して『その時』を待とう」と言い合っています。
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