金正日が頼りにする治安機関
この中堅幹部の話は、金正日が情報機関の国家安全保衛部や保安部(警察)を重視しているという話題に変わっていった。ここでは金正恩の名前は出て来ないのであるが、金正恩が保衛部長の職にあるという情報も流れているので、この幹部の話を続けよう。

パク:保衛部は今どんな役割をしているのですか?
幹部:金正日が体制を維持するために、今信頼を置いているのが保衛部です。これは私の知人の保衛部の幹部から聞いた話ですが、去年と今年、金正日は保衛部の忠誠心を高めようと、たくさんのプレゼントを贈ったそうです。「『苦難の行軍』のときは、お前たちはひどい有様だった」と言いつつ、「今後に期待する」という含みを持たせた言い方をしたそうです。

パク:九〇年代に「ひどい有様だった」というのは、どういう意味ですか? 大飢饉の際の社会混乱の時、保衛部は役に立たなかったのですか?
幹部:そうです。当時の社会混乱を鎮めたのは、保衛部ではなく、保衛司令部でした。(注4) 保衛部は当時、まるで炭火(すみび)のようで力がありませんでした。それでも今は、金正日が自分たちを重用してくれる、信じてくれているといって、内部の士気が大変高いそうです。

保衛部の人間は保安部に対し、その権勢を振るうことができるのですが、党に対しては手を出せない。党の方が強いのです。そうした力関係の中、今では保衛部に、党と並ぶような力を持たせようとしているということです。金正日といえども、今の朝鮮で保衛部無しに体制を維持するのは難しいのです。

金正日は体制を安定させようと保衛部を強化しようとしています。一方で、保安部にも気を遣っている。そして「どっちが業績をあげるか競争しろ!」とハッパをかけるのです。すると保衛部も保安部も、金正日に良く思われようと必死になります。

こうなるともうお互い周囲の事情なんて気にしません。なりふりかまわず何がしかの「成果」を上げようとするのです。朝鮮で何か一つでも「成果があった」というと、それは人民を搾取したということなんですよ。わかりますか? 例を一つ挙げましょう。保安部で建設した「大同江(テドンガン)果樹農場」という名前を聞いたことがありますか?

パク:はい。今年(一〇年)六月に金正日が視察し、称賛したという平壌郊外にある大きな果樹園ですね。
幹部:そうです。これを保安部にやらせたわけです。人民の安全を守るのが役目の保安部が、どんな財産や資材によって、あのような農場を作れたと思いますか? あれは保安部が道、市ごとの全ての保安員(警察官)たちに「無条件で必ず金を集めて来い、できない場合は容赦しない」と脅して出させた金で造られたのです。

力のある保安員は金のある人のところに行って、金を無理やり出させます。また、保安員本人の妻が市場で商売して作ったお金をかき集めて、上納させていました。そうして建設された農場を見て、金正日は「よくやった!」と、保安部を褒めました。

そして今度は保衛部に「お前たちは何やってるんだ」と競争を煽るようなことを言うわけです。すると保衛部もまたなりふり構わずお金をかき集めることになる......。この繰り返しです。お金や資材は、一〇〇%すべて下からかき集めてくるんですよ。人民にしてみればたまったものじゃない。結局金正日の行う政治のしわ寄せはすべて人民に来るというわけです。
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