南浦駅前広場。電車を待つ多くの人々がたむろしている。2008年10月沈義川(シム・ウィチョン)撮影


市場うろつく腹減らした軍人たち

私が最後に向かったのは、朝鮮一の港を抱く南浦市だった。海州(ヘジュ)からはバスで5時間ほど。車内はこれまでの道のりと同じように重苦しい雰囲気に包まれていて、時折商売についての話がボソボソと聞こえてくる程度だった。
南浦を訪れるのは久しぶりだった。さっそく市内に二つある大きな市場のうち東市場に行ってみた。規模は海州よりは小さかったものの、並んでいる品物の内容はさすが平壌の玄関口だけあって、多種多様だった。中国製の高価な雑貨や、中には日本製と思われる品物も売られていた。加えて、周辺で生産できているからだろう、食用油などの加工食品は海州よりも安かった。

行き交う人も、明るい色の服を着た人が多く、海州よりも生活水準が高いと思われた。
市内に住む知人に会って、そういった南浦の都会的な印象を告げると、一笑に付された。
「あなたがどの地域と南浦を比べているのかは分からないけど、数年前と比べると、生活の水準はかなり落ちたよ。外国から入ってくる船も、南浦と新義州を結ぶ列車も減ってしまったせいだと思う。ドルをたくさん持っている羽振りのよい連中もいないわけではないが、今じゃ金持ちと貧乏人の差は随分と開いてしまったよ。貧乏人はずっと貧乏なままさ」

そう自嘲気味に語る知人の家でごちそうになったのは、白菜と大根の浅漬けと、野菜の切れ端が入った塩汁、そしてトウモロコシとコメを混ぜて炊いたものだった。

駅の構内で電車を待っていると思われる女性兵士。疲れているのか、一人は居眠りしている。2008年10月沈義川撮影

再び市場に戻ると、よれよれの軍服姿でうろつく若い兵士が数人目に付いた。部隊の食事では足りず、お腹を空かせているのだろう。何かを食べたいがお金はないし、軍隊の体面上、もちろん物乞いをする訳にもいかない。かと言って商売人たちに食べ物をたかるようなこともできず、あてのないまま、市場の中をキョロキョロしているように見えた。あのようなみすぼらしい姿の軍人が市場によく来るのか、目の前にいたトウモロコシソバを売る女性に聞いてみると苦笑いと共にこう答えてくれた。

「お腹を空かせた兵士はいつもいるよ。一体、軍隊の食糧事情はどうなっているんだろうね。私たちから闇雲に取り上げていった軍糧米は一体どこにいってしまったのやら。軍糧米を出すこと自体にはしょうがないと諦めもつくけど、どうせ庶民から取り上げていくなら、せめて兵士の口に入るように使ってあげて欲しいもんだよ」。
こうした話は農村でも耳にした。ある農夫は「軍隊は強盗を育てる機関に成り下がっている」と、怒りを込めてまくしたてた。農村では、それほど食べ物に困った兵士による強盗事件が多いということだった。
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