2011年7月、平安南道で撮影された、栄養失調でがりがりに痩せ細った兵士の一団。後方に移送中の工兵部隊だ。建設に従事する部隊は特に劣悪な栄養状況にある。撮影:具光鎬(ク・グァンホ) (C)アジアプレス

2011年7月、平安南道で撮影された、栄養失調でがりがりに痩せ細った兵士の一団。後方に移送中の工兵部隊だ。建設に従事する部隊は特に劣悪な栄養状況にある。撮影:具光鎬(ク・グァンホ) (C)アジアプレス

 

◆それでも足りない「軍糧米」
この数年、さらに農民の暮らしが酷くなっているのは、国家による「収奪」が度を増しているからだ。中でも特に目立つのが「軍糧米」の徴発だ。経済が破綻状態であるにもかかわらず、北朝鮮政権は人口の5%前後にもなる大規模な軍隊を維持しようとしている。つまり、金がなくて分不相応な「非生産集団」を養えなくなっているわけだ。そのため人民軍兵士たちの多くが栄養失調にあえいでいるのが現実である。

優先的に農場から収穫物を集めているはずの軍隊に、十分な食糧が行き渡っていないもうひとつの理由に「横流し」がある。本来、末端の兵士にまで配給されるはずの食糧が、軍幹部らの手により、市場へと売られてしまうのだ。

食糧配給の無い一般の住民は、主に商売で儲けた金で食糧を購入するため、軍幹部は横流しによって、副業を行わずとも貴重な現金を手にすることができる。結果、末端兵士に届くはずの食糧が市場で流通しているのである。これは北朝鮮住民の間でも広く知れ渡っている事実だ。だが、金正日時代から今も「先軍政治」を掲げ続ける北朝鮮では、横流しをある程度黙認することで軍幹部の物質的不満をなだめつつも、軍の栄養失調を放置する訳にはいかないジレンマがある。このため、結局、軍糧米の徴収量を増やすことで事態に対処するしかない。

その顕著な例が2011年の年初から春先にかけて行われた、農民以外の住民に対する軍糧米の徴発である。地域によってばらつきはあったものの、概ね一人当たり数キロの食糧が義務として割り当てられた。そればかりか、市場内で商売している住民に対しても、市場管理員がその場で軍糧米供出を要求するなど、有無を言わさない異例の事態となった。農村以外への軍糧米要求が行われたのは、初めてのことだった。(つづく)

※1 韓国統計庁「北韓統計(2011年)」に拠る。正確には36.8%(2008年)。
※2 韓国国防部「韓国国防白書(2010年)」に拠る。
※3 2008年北朝鮮の中央統計局が実施した、国連機関の基準に則った人口調査に拠ると、平壌市の全人口は約325万人。しかし、その調査結果には信憑性に欠ける部分があると言わざるを得ない。国家全体の人口を見ても、90年代後半の「苦難の行軍」期に、最低でも100万人以上が死亡したとされるにも関わらず、人口が二2405万人と、前回調査時の1993年より284万人も増えているからだ。人口数値はあくまで「参考値」である。また、その後平壌市は面積を縮小しているため、さらに人口は減っている。
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