編集部が取材した両江道出身の三〇代のある男性は、二〇〇〇年代初めにやはり親が賄賂を使って西海岸の港の部隊に配置された。北朝鮮では港への人の出入りを軍(多くは国境警備隊)が警備・検問している。出入りにはその都度証明書が必要だ。漁船や貿易船、貨物船などが出入りするため、商売で港に出入りしたい者は、この検問を担当する兵士に賄賂を渡して便宜を図ってもらう。

「私は部隊でずっと白米を食べていたし、貯めた賄賂や住民たちからの軍への支援品で焼肉もよくやった。商売人たちはやはり利害のある所の部隊を支援しようとするから」
と、この男性は語る。しかも彼は、実家がまた賄賂を使って、一年ほどで除隊して大学に進学していた。

このように、一般住民を統制する権限のある部隊に配属されると、賄賂が期待できるため食事に困ることは少ない。もちろん、もともと特別待遇される部隊もある。金正日一家=ロイヤルファミリーおよび高級幹部を警護する護衛総局や空軍、特殊部隊などだ(だが、かつて優遇されていた空軍や護衛総局の兵士にも食糧問題が生じていることは、こちらのリンク先の記事こちらのリンク先の記事で言及している)。

軍の飢えが始まったのは八〇年代
「軍隊は七五年頃までは腹いっぱい食べられた。白米と雑穀が五対五だけれども飯は一日八〇〇グラム。卵も肉も支給されていて、兵士は民間人よりいい体躯をしていた。軍隊に行かないと入党も出世もできないので、かつては親たちは先を争って軍隊に行かせていた。軍の食事が悪くなったのは八〇年代の初め頃からで、九〇年代の『苦難の行軍』期から兵士に餓死者が出始めた」
と、リ・サンボン氏は言うが、キム・ドンチョル記者も、また他の脱北者も共通した証言をしている。

軍の待遇悪化は、経済衰退によって他の産業全般が瓦解していく過程と軌を一にしている。特に栄養失調が多いのは、土木建設工事に従事する部隊で、先の記事「1 ビデオカメラが捉えた飢える兵士 I」の写真にあった工兵局の部隊の他、七総局、八総局と呼ばれる部隊だ。「規定の食事量は同じだが重労働だからだ」と、キム・ドンチョル記者は言う。

いわゆる建設部隊に配属された兵士は、一〇年間の兵役期間中、銃を撃つ訓練すらほとんどせず、もっぱらシャベルとつるはしを担いで過ごすという。朝鮮人民軍の兵員全体のうち、建設部隊がどれくらいになるのか不明だが、韓国政府は半分程度とみているようだ。

軍の食糧事情が悪くなると、将校や幹部たちが部隊の食糧をくすねるようになった。まず、自分の身内用に持ち出した。さらに経済不振と反比例するように闇経済が活発になって行くと、部隊に配分される食糧や備品を闇業者に横流しして現金化し私腹を肥やす者が続出した。末端兵士に渡る食糧はますます減っていくことになる。
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