左の通話中の女性は子連れで逓信所前まで来て、「コガンクン」の女性たち(右)に手続きを依頼しているようだった。(2011年6月平壌市 ク・グァンホ撮影)


[3]電話機の種類と価格

北朝鮮の生活水準を考えると、携帯電話機はとても高価である。以下に記すのは一一年一二月時点で把握したものだ。ク・グァンホ記者とチェ・ギョンオク氏の報告には若干違いがあるが、これは地域差なのかよくわからない。

「購入可能な電話機は五種類で、機種によって二〇六ドルから三四六ドルまであって。最も高いのは『タッチ』だ」
と、ク・グァンホ記者。「タッチ」とは何なのだろうか?
「ほら、液晶画面に直接触って操作するやつ。皆『タッチ』と呼んでる」。
なるほど、見た目がスマートフォンのようなパネル上で操作する機種なのだろう。彼によると、他に、スライド式や折りたたみ式があるという。

チェ・ギョンオク氏は一部機種番号まで調べてくれた。
「F95が二三〇ドル、F107が二七〇ドル。それから通称『太っちょ』と呼ばれるF61が二五〇ドル、通称『美男子』のF106が二七〇ドル。折りたたみ式三〇〇ドル、スライド式三五〇ドル、『タッチ』は小が三六〇、大が三九〇ドルだ」。

どこのメーカーの機械を使っているのか全体像は不明だが、貿易統計を見ると、一〇、一一年は中国から通信機器の輸入が急増していることから中国製が 多いと見られる。また、中国の大手メーカー「華為(ファーウェイ)」製の電話機はさらに値段が高く、平壌や平城(ピョンソン)、咸興(ハムン)などの大都 市では流通しているが恵山市ではまだ売られていない、とチェ・ギョンオク氏。やはり購入は外貨で、米ドル、中国元の他、日本円やユーロでも可能だという。

[4] 通話料は前払い、音質は今ひとつ

通話料金は二段階式の先払い制だ。まず最初に三ヶ月分の最低通話料三〇〇〇ウォン(一一年一一月末時点で約五五円)を朝鮮ウォンで支払う。

以下はク・グァンホ記者の説明。
「三ヶ月ごとに逓信所に行って固定料金三〇〇〇ウォンを先払いする。これには二〇〇分相当の通話料金が含まれている。通話するごとに所定の料金が差し引か れていき、定期的に通話可能残高がメッセージで送られてくる。携帯電話同士の方が、固定電話にかけるよりも安い。受信には料金はかからない。電話機の値段 に比べると通話料は随分安いと最初は思ったが、普通に使っていても先払い分はすぐになくなってしまう。そうすると今度は逓信所で販売している『ドルカー ド』(恵山では『外貨カード』とも呼ばれている)を買って残高を補充する。『ドルカード』は一〇・五ドルから一六ドルまで四種類あり、それぞれ二〇〇分か ら三三五分を補充できるようになっている。カード番号を携帯電話に入力すると、すぐにまた使えるようになる」。

チェ・ギョンオク氏によれば、これも中国元、ドル、ユーロ、日本円のどれででも買えるそうだ。朝鮮ウォン払いの三ヶ月分の固定料金は、どんどん変動しているようである。

通話時の音質はどうなのだろうか。平安北道に住むキム・ドンチョル記者は使用感をこう語る。
「平壌や平城などの大きな都市では問題ないけれど、それ以外の地方都市では繋がりにくい。新義州(シニジュ)でもいま一つ。『中継所』と呼ばれるアンテナ 設置が遅れているんだと思う。それで、電波を遮るものがない見晴らしの良い山に登って電話することがある。冬は寒いから一苦労だ(苦笑)」。

オラスコム社は居住地域の九四%で通話可能だとしているが、設置や維持にコストがかかる「中継所」の増設はそう順調ではないようだ。ちなみに平壌の地下鉄構内では使えないという。
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