軍糧米調達できず「徴発」に踏み切る

北朝鮮政権は従来、軍糧米を次のようにして調達して
きた。
1 協同農場などの国内生産から国家に納付されたもの。
2  輸入や国際支援など海外から導入されたもの。
3  軍の副業地の生産物。

現状は1〜3ではまったく足りないため、二〇一一年には4「軍糧米徴発」を始めた。都市住民からの露骨な収奪をスタートさせたのである。

協同農場の農民に対しては、はるか二〇年前から軍糧米の収奪は始まっていた。協同農場では、収穫のうち規定量を国家に納めた残りが農民の取り分= 「分配」となり、毎年秋に支給される。だが、「愛国米」「軍糧米」、あるいは平壌建設のため「首都米」などの名目で「分配」の中から差し引かれるようにな り、それは現在まで続いている。ところが一一年になると農村からの収奪だけでは足りず、それが都市住民にまで拡大された。一月末頃から「軍糧米の献納」を 呼びかけるとともに強制的な「徴発」を始めた。新しい標的は商売をする民衆たちである。

キム・ドンチョル記者は一一年一〜四月、この軍糧米の強制「徴発」について詳しく取材した。公設市場で商売をする人々に対し、「軍糧米の献納」を強 要し、納められない者に恫喝をかける様子が撮影した映像に記録されていた。軍糧米を実際に集めるのは軍人ではなく、「市場管理員」という役人で、市場で商 売をしている一人一人に対し直接コメやトウモロコシを納付させていた。

また、直接市場に立たずに「運び屋」や「卸業」をする人も標的になっていた。農村に出向き、コメやトウモロコシ、果物や野菜などを仕入れ、市場の小 売人に卸売りをする「テゴリ」と呼ばれる零細商人からもキム・ドンチョル記者は聞き取りをしていた。保安員(警官)が「テゴリ」たちを道で待ち構え、農村 から穀物を一定量以上搬出するのを検挙するという。

「農村で買いつけたトウモロコシを軍糧米として没収された。俺たちに飢え死にしろとでもいうのか?」
このような「テゴリ」たちの嘆きの声が映像には記録されていた。

必要量は年間三七万トン

さて、この一一九万人の軍隊を飢えることなく食べさせるためには、どれぐらいの食糧が必要なのか見てみよう。

一日に兵士一人当たり人民軍の規定の八〇〇グラムが支給されるとすると、一日九五二トン、一年でざっ三四万七四八〇トンが必要だ。これに軍官(将 校)の家族への配給が必要となる。将校が三〇人に一人いると仮定すると三万九六六七人。扶養家族が三人いて一日五〇〇グラムずつ支給すると五九トン、年間 にすると二万一五三五トンが必要になる。合わせてざっと年間三七万トンの食糧があれば、兵士から将校とその家族まで、まったく空腹を感じさせることなく維 持することができる。だが実際には、軍隊に供給されている食糧は必要量の年間三七万トンの半分にも満たないのではないか。

これを仮に全量中国から輸入するとして計算してみよう。

中国から北朝鮮に一〇年に輸出されたコメ一トンの平均単価は二八五八元、同トウモロコシは一八一六元であるので、必要量が三七万トンならコメでは一 〇億五七四六万元=一億五六一八万ドル、トウモロコシならば六億七一九二万元=九八七七万ドルあれば購入できる(一〇年の平均レートは一ドル=六・七七 元)。コメとトウモロコシが半々であれば日本円でざっと一〇〇億円余りで中国から全量輸入できるわけだ。国内生産分からの充当がありながら栄養失調が蔓延 している現状を考えると、北朝鮮政権が「先軍政治」の要の兵士を食べさせるために外貨を使おうとしていない、あるいは外貨がまったく不足しているというこ とが推測される。
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