構造的な横流し、市場に吸収される軍糧米

北朝鮮は九〇年代に食糧配給制度がほぼ崩壊し、以来、闇市場経済が活性化し始めた。そして〇三年の闇市場の合法化によって、統制と緩和を繰り返しな がらも、食糧は市場で合法的に売られるようになった。今では、北朝鮮の人々の大部分が食糧入手を市場を通じて行うようになり、国家を介さない食糧の流通量 がどんどん膨らんだ。すると国家所有の農産物までが、市場に吸い込まれていくようになった。現金を手にしたいがために、公的な財産を市場に横流しする腐敗 した権力者たち、生きていくために小商いに勤しむ民衆、その両方が市場に食糧を送りこむ主体である。規則として軍隊に回されるはずの食糧―国内の農場での 生産物や輸入されたものも含め―のかなりの部分が兵士のもとには届かず市場に吸引されていったものと、筆者は推測している。もっともその割合については まったく闇の中で不明であるが。

市場に行けばいつでも、どの地域でも食糧は不足することなく販売されている一方で、政権が「優先配給対象」としている集団(例えば軍需産業、国営炭 鉱など)に属する人々の多くが、慢性的に食糧難に喘ぐという転倒した現象が発生している。市場を見れば国内の食糧の絶対量が不足しているわけではないこと は明らかだ。だが、市場活動ができなかったり、制約が大きい集団は、十分な食糧を手に入れられずやつれている。その典型が軍隊なのだ。軍隊は、北朝鮮の中 で市場からもっとも遠ざけられた最大集団なのである。現在の運営方法が続く限り、兵士たちはずっと、慢性的に飢えるしかないように筆者には思われる。

キム・ドンチョル記者やク・グァンホ記者が撮影した映像に映っている、やつれ憔悴した若い兵士たちは本当にかわいそうだ。一七歳から二〇代の青春 真っ只中の時期を、ぺったんこの腹を抱えて無為な動員労働に費やさなければならないのだ。彼らの空腹を緩和してあげる手立てはないものだろうか。「北朝鮮 の軍隊にも食糧支援を!」と呼びかけても、国際社会の誰も賛同しないだろう。兵士たちの飢餓の緩和のために筆者がすぐに思いつくのは、兵員数を大幅に減ら し、彼らを社会に戻して市場活動ができるようにすべきだと、北当局に提言をすることぐらいだ。それが実現すれば、兵士の大半は、飢えとは無縁の暮らしがす ぐにできるようになるはずだ。
(一部敬称略)

(この項おわり)

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