右側が咸鏡北道茂山(ムサン)郡。間を流れるのは豆満江だ。朝中国境から数キロまでであれば、北朝鮮国内でも中国キャリアの携帯電話が使用可能だ。(2012年3月 ナム・ジョンハク撮影)

 

リムジンガン編集部では、一一年一二月に金正日総書記が死去した混乱の最中でも、毎日のように北朝鮮国内と連絡を取ることができていた。それが可能だった のは、北朝鮮に投入してある中国キャリアの携帯電話のおかけだ。国境地帯では数台が常に機能しており、内部の記者や取材協力者たちと、日常的に交信を続け ることができた。だがここ一、二年ほどは、受話器越しに相手の緊張が強く伝わってくることが多くなった。当局の監視が厳しくなり、通話すること自体が「冒 険」になりつつあったのだ。

「今日は寒食(ハンシク:先祖の墓参りをする日)なので、墓地のある近所の山に登って電話しています。街中では『電波探知機』を持った保衛部(情報機関)の連中がうろうろしているから、おちおち電話できませんよ」。

「今日は茂山(ムサン)鉱山にほど近い山にある小土地(ソトジ:個人の不法耕作地)からです。ここに来る途中、携帯電話を隠し持っていないか、全て の人が私服警官に身体検査されました。私は、念のためにと弁当箱に電話機を隠しておいたので大丈夫でしたけれど、明らかに厳しくなりました」。

「電話が途切れてすいません。電話機がどうやら湿気にやられたようです。保衛部の連中が取締りだといって家中ひっくり返していくもんだから、電話機をビニールに包んで地中に埋めておいたんです。次からはもっとぐるぐる巻きにして湿気を防ぐようにします」。

いずれも、二〇一一年春に咸鏡北道の茂山郡に住む取材協力者のアン・ドンミン氏が伝えてきた内容である。いかに北朝鮮当局が中国の携帯電話に神経を 尖らせているかが分かるというものだ。北朝鮮当局が目の敵にしている国境地帯の「非社会主義行為」―すなわち、密輸、脱北とその幇助(人身売買を含む)、 韓国映画・ドラマなどをはじめとする外部情報と文化の流入、そして国内情勢の海外流出などに、ことごとく中国の携帯電話が使用されているからに他ならな い。

特に豆満江沿いの咸鏡北道茂山郡と会寧(フェリョン)市、鴨緑江沿いの両江道恵山(ヘサン)市など国境の大都市は、「非社会主義行為」の拠点と見な されており、重点取締り対象となっている。そして、この数年現地の住民を恐れさせているのが、アン・ドンミン氏の冒頭の言葉にあった「電波探知機」だ。こ れは、電波をキャッチし、携帯電話がどの場所で使われているのかを特定できる装置で、保衛部や国境警備隊、さらに検閲部隊(中央から派遣されてくる取締り 専門の部隊、別記事「暴風軍団」参照)が、この機械を持って巡回しているのだ。

中国の携帯電話使用者が次々に捕まるに及んで、住民の間では「新型のドイツ製の機械を使えば通話内容も把握されるし、電話の所持者が誰なのかも分かる」などと、話に尾ひれが付いて伝わっており、「電波探知機」は恐怖の対象となっている。
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