◆笑顔少ない理由は
花に囲まれた写真も目立った。本の題名にもあるように、黄さんは花が大好き。丹精した植木鉢はべランダに置ききれず、玄関の外まであふれるほどだった。「黄さんは花を見ていると、花のように純真だった少女時代を思い出すといっていました。デモの時も『慰安婦にされる前の花のような少女に戻して。戻せないなら、謝って』といつも訴えていました」と保田さん。

97年、大阪での証言集会を終えソウルの自宅に帰宅。花いっぱいのベランダで微笑む黄錦周さん

 

支援者と楽しそうに笑う一葉を示し、保田さんは「こんな笑顔は珍しい」とも話した。なぜなら「いまでも『慰安婦は売春婦だったんだ』『金がほしくて身体を売ったんだ』『いま訴えているのは金がほしいからなんだ』という心ない声が事あるごとにわきあがってくるから」だ。黄さんは「もう死んでいくだけなのに。金がほしくて訴えたんじゃない。ただ謝ってほしい。アキヒトに、私のお父さんが悪いことをしましたと謝ってほしい」といつも悔しがっていた。

黄さんたちは教科書への記載を願った。そして97年から使用された中学歴史教科書は7社全てに取り上げられた。すると「新しい歴史教科書をつくる会」などが「教科書から削れ」という激しい攻撃を展開した。結果、現在の歴史教科書からは一切の記述が消えてしまっている。

◆「河野談話」を否定
そしていままたその動きが再燃している。火付け役は大阪市の橋下市長。8月21日の定例会見で李明博大統領の竹島上陸などに関連し「慰安婦」問題に言及、「強制連行が問題なら軍に暴行脅迫を受けて連れてこられた証拠はない」「証拠があるなら韓国に出してほしい」などと語ったのだ。

24日には「河野談話は最悪。見直すべきだ」「単に慰安婦だった人の証言があればいいわけじゃない」などエスカレートした。石原都知事も「河野のバカが」と援護射撃、自民総裁選に出馬した安倍晋三氏は「談話見直し」に言及した。
「河野談話」は軍の関与を認めたうえで、朝鮮半島出身を含む慰安婦の募集や移送などに関し「甘言や強圧など総じて本人たちの意思に反して集められた」とした。

「談話否定派」は縛って引きずるような「狭義の強制」に矮小化、全てを否定するのが常套手段だ。性暴力の被害者に対する想像力の欠片もない。黄さんたちはこうして繰り返し尊厳を傷つけられてきたのだ。
保田さんは「領土問題をめぐり緊張関係が漂う中で、ナショナリズムを声高に煽りたてる人がいる。でも私はそういう対立関係の中にこの『慰安婦』問題を置いてほしくない」という。「人として黄さんの悲しみや苦しみや悔しさを感じ取ってほしい。そして黄さんが本当の笑顔を取り戻せる日がきてほしいのです」
【栗原佳子/新聞うずみ火】
※『花に水をやってくれないかい?』(梨の木舎)1,575円(税込)

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