東京電力福島第一原発事故で、放射線量が局地的に高い地点を世帯ごとに指定した「特定避難勧奨地点」をめぐり、地域社会が切り裂かれている。隣同士で指定の有無が分かれたばかりか、賠償金が絡んだことで事態が複雑になった。きれいな空気も土も水も、そして人々の固い結束まで奪ったものは何なのか。東日本大震災・原発事故からまもなく2年。伊達市霊山町小国(りょうぜんまちおぐに)地区に入った。
(新聞うずみ火 矢野 宏、栗原佳子)

小国小学校脇の側溝付近。依然、放射線量が高い

小国小学校脇の側溝付近。依然、放射線量が高い

 

◆分断された地域を元通りに
地域を翻弄した「避難勧奨地点」は、昨年12月14日付で唐突に解除された。3月末までは猶予期間だが、それ以降は全ての賠償が打ち切られる。同日付の地元紙・福島民報は『指定の有無で地域内には分断が起きており、市は解除で地域の一体化を図る考え』だとして、仁志田昇司市長の「放射線量が下がるという帰宅条件は整った」というコメントを伝えている。

しかし現実には、指定世帯の除染も終了していない。解除から2カ月になるいまも、避難先から戻った住民はいないという。同じ避難勧奨地点がある南相馬市は、その後も指定を継続中だ。

そんな中、今年2月5日、指定を受けなかった世帯の住民たちが国の原子力損害賠償紛争解決センターに対し、指定世帯と同水準の賠償を東電に求める裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立てた。指定によって地域が分断され精神的苦痛を受けたとして、2011年3月11日の時点に遡り、和解成立まで指定世帯と同じ1人当たり月10万円を支払うよう求めている。小国地区のほか、同じ霊山町の坂ノ上・八木平(やぎへい)地区、月館街相葭(あいよし)地区の323世帯991人。非指定世帯の9割以上の住民が名を連ねるという大規模な集団申し立てだ。

「金が欲しいだけではないのかという批判もあると思います。でも、他にどういう方法があるのでしょうか。何もやらないでこのまま過ごしてしまうと、ますます溝は深まっていくばかりです」
復興委員長として、1年がかりで申し立ての準備を進めてきた大波さんはそう話す。市や県はもちろん、国に直訴しても何も変わらず、たどりついたのがこの手段だった。

助け合って農作業に汗を流し、暮らしてきた土地柄だ。なのに、そんな農村ならではの収穫祭や盆踊りなど、折々の行事が中止になったままの集落もあるという。指定を解除すれば住民が戻り、地域の絆も戻るなどというのは「机上の暴論」でしかない。
大波さんは息子と2人で1.3ヘクタールの田畑を耕し、農業を営んできた。おいしい米作りが口コミで広がり、顧客との特約契約もどんどん増えていたが、原発事故によってすべて失くした。子や孫に自慢の米を送ってやる生きがいさえも。
「同じ住民同士に差別があってはなりません。集落が元のように一つになることが大切なのです。これが、出発点です」
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