◇食品の汚染表示が大切
「直ちに影響はありません」の言葉に代表されるように、福島第1原子力発電所の事故直後から国や経済団体は、基準値を下回っていることを理由に健康への影響がないことを強調してきた。しかし、妊婦や幼い子供を持つ母親たちからは、子供の健康を心配する声が絶えず聞こえてくる。その中に「母乳の放射能汚染」という、乳幼児を抱える母親にとっては非常に深刻な問題がある。この問題について、京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さんに聞いた。(ラジオフォーラム)

ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん

ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん

◇チェルノブイリの記憶
ラジオフォーラム(以下R):チェルノブイリ事故の時、日本のお母さんたちの母乳1リットルを検査されたそうですね。

小出:当時、チェルノブイリから放射能が飛んできまして、日本で採れる様々なものも汚染されました。その中で日本に住んでいる母親の母乳を調べて欲しいという依頼が届きまして、それをやったことがあります。

R:その結果はどうだったのですか?

小出:1リットルの母乳をお預かりして、その母乳を測定したところ、ヨウ素131という放射性物質が1ベクレルを超えて含まれていました。本来はゼロのはずなのです。こんなところまで飛んで来るんだな、そして、母乳にまで出てしまうんだな、と思った記憶があります。

R:そうすると、今回の福島第1原発事故による放射性物質も、母乳に含まれていた 可能性が高いということですか?

小出:当然、福島の母親の母乳の中にはヨウ素があった はずです。今、数字をはっきり覚えていませんが、1リットル当たり、1ベクレル、或いは、零点何ベクレルというものがあちこちであった と思います。

R:これに対して何か防衛する手段はあるのですか?

小出:環境が放射能で汚れてしまえば、母親という生き物を含めて、そこで生きている全ての生き物の体が汚れることは基本的には避けることが出来ないと思って頂くしかありません。但し、それを少しでも下げるために、もちろんやれることはたくさんあります。例えば、母乳が汚れるということは母親の体が汚れているわけですけれども、呼吸で吸い込んだり、食べ物から取り込む放射性物質を減らす、或いは水道水の中の汚れを減らすなど、なにがしかのことはできるわけですから、やるべきだろうと思います。

R:母乳に放射性物質が含まれているからといって、粉ミルクにすればいいというわけではないのですね?

小出:もちろん、母乳からの汚染を極力避けることは大切なことです。ただ、母乳をやめて粉ミルクにしたとしても、水道水を沸騰させてそれに粉ミルクを溶かして冷やして与えるのであれば、あまり有効とは言えません。当時は水道水も汚れていたのです。

福島の事故の後で、東京の金町浄水場の水も汚れているという話がありましたけど、水道水自体が汚染されているのですから、それに粉ミルクを溶かしたとしても、やはりだめなわけです。

R:家庭の水道の蛇口につける、活性炭の入った浄水器などで放射性物質を除去することはできるのですか?

小出:ある程度はできるのだろうと思います。チェルノブリ事故の時、日本の、母乳の汚染を検出したお宅ですぐに試してみました。水道水そのままではなくて、活性炭をつけて、活性炭でヨウ素、或いは他の物質を取り除いて、母親自身の汚染を取り除こうと努めたことがあったのです。暫く活性炭の浄水器を使ってもらい、1ヵ月後くらいに、その活性炭内の放射性物質を測定してみたのです。残念ながら、私が期待したほどには、活性炭は有効ではありませんでした。
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