日本から平壌を訪れた人たちの中には、その「発展ぶり」に感嘆する人が少なくない。しかし実際に平壌に住んでいたハン氏は「本当の市民の暮らし見た らそんな言葉は出るはずがない」と喝破する。見栄えだけは良いアパートもほとんど水道すら出ないのだという。元教員と秘密警察要員による異色対談の第三 弾。

○人物紹介
ハン・サンホ(仮名)30代半ばの男性。平壌出身で教育界で長く仕事をしてきた。日本在住の脱北者

チャン・チョルミン(仮名)咸鏡北道生まれ。軍服務の後2010年の脱北時まで国家安全保衛部(情報機関)で勤務した。韓国在住

司会 石丸次郎「北朝鮮内部からの通信・リムジンガン」編集長

(参考写真)20階を超える高層アパートの建設現場。各階の窓枠の位置も大きさもまちまちで歪んでいるのがよくわかる。2011年8月 平壌市大同江区域にて ク・グァンホ撮影

(参考写真)20階を超える高層アパートの建設現場。各階の窓枠の位置も大きさもまちまちで歪んでいるのがよくわかる。2011年8月 平壌市大同江区域にて ク・グァンホ撮影

 

石丸:北朝鮮では限られた資材を平壌の建設に優先させているために、国内のインフラ整備に大きな支障が出ていま すね。一方、平壌を訪ねた日本人の中の少なくない人は平壌の「発展ぶり」を称賛し「北朝鮮の人びとが貧困に喘いでてるなんてウソだ」と語り、アジアプレス の報道を批判したりもします。北朝鮮に最近まで暮らしていたお二人はどのように考えますか?

ハン:平壌に行ったとしても、その実態や人々の暮らしを見ずに、建物だけ見たところで何も判断できないでしょう。金正日は金日成の業績を宣伝するために、革命史跡に多くの投資を行いました。ですがそれは、国民の生活にとって何の意味もないし、何ら必要のないものでした。

チャン:北朝鮮の実情を知らない人ならば、そういった考えを持つかもしれません。例えば、金正恩が権力の座につ いて以降、しきりに「発展する平壌」象徴として宣伝されている倉田(チャンジョン)通り(編注1)ですが、夜になると、この通り以外の全ての街は真っ暗闇 ですよ。公開されている写真を見れば分かります。

そんなことをするくらいなら、平壌の全ての住宅に1~2時間でも電気を供給すればいいのにと思いますが、倉田通りは金正恩の業績なので、そうするわけにはいかないのです。倉田通りだけを見て、金正恩時代になって幸福になり、豊かになったと判断するのは大きな間違いです。

ハン:そもそも、日本からの観光客は行きたいところに行けるわけではないのです。昔から百聞は一見にしかずと言いますが、本当の平壌市民の生活を見たら、そんな言葉も出ませんよ、きっと。

(参考写真)平壌市楽浪区域のアパート街の一角。住民たちがめいめい物売りをしている。(2007年8月 リ・ジュン撮影)

(参考写真)平壌市楽浪区域のアパート街の一角。住民たちがめいめい物売りをしている。(2007年8月 リ・ジュン撮影)

 

チャン:北朝鮮はたくさんの秘密を持っていますが、外国人には一切公開しません。私たちは北朝鮮で暮らしてきま したから、建物一つとっても、それは金日成の「配慮」や金正日の「恩徳」で建てられたものではないので、電気も水の供給もありません。住民が自分の力で暮 らしているということを知ってほしいですね。
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