北朝鮮では、国家の最高指導者を除くすべての人々に課せられた義務がある。「生活総和」と「政治学習」だ。生活総和とは、簡単に言うと〝反省会〟のこと。 中学生は学校で、農民は協同農場で、労働者は職場で、少なくとも週一回集められて、自分の生活態度や職務の欠陥を告白・反省し、学友や同僚や隣人のそれを 批判しなければならない。だがその目的は、金日成氏や金正日氏、そして金正恩氏に対する忠誠の度合いをチェックすることにある。北朝鮮の人民統制の要「生 活総和」はどのように行われているのか、その方法と実態について、平壌出身の脱北者リム・チョル氏の手記を連載する。(寄稿リム・チョル(脱北者)/訳・ 整理 リ・チェク)
<私が受けた批判集会「生活総和」>記事一覧

農村動員の作業の合間に行われた政治学習の様子。「金正恩同志と生命・運命を共にする真の同志となるためにどうすればよいのか」について、女性幹部が早口で資料を棒読みしていた。(2013年6月北部地域 ミンドゥルレ撮影)

農村動員の作業の合間に行われた政治学習の様子。「金正恩同志と生命・運命を共にする真の同志となるためにどうすればよいのか」について、女性幹部が早口で資料を棒読みしていた。(2013年6月北部地域 ミンドゥルレ撮影)

 

すべての基本は「お言葉」
生活総和は週一回を基本とし(週生活総和)、月間の生活総和、四半期ごとの生活総和、年間の生活総和も行われる。また、大きな過ち(とみなされる行為)が露見したり、一定期間の海外生活を終えて帰国したりした場合は、その都度、生活総和をしなければならない。

生活総和は口頭で行うだけではダメで、ノートに記述したものを発表する形式で行う。ちなみに、朝鮮の国民は皆、生活総和専用のノートを持っている。

ほかにも、後述する政治学習用のノートや金日成、金正日の「お言葉」を記録するためのノートも持っていなければならない。人々はこれらをひとまとめにして、「政治学習ノート」と呼んでいる。

ノートは、できるだけ質の良いものを使う。とくに規格が定められているわけではないのだが、表紙が痛んだものや安っぽいものを使っていると、「姿勢がなっていない」として減点要素となるからだ。

政治学習ノートはすべての国民が持たなければならないので、その需要はかなりのものになる。市場にいくと、赤い表紙に金色の字で「政治学習」と印刷されたノートが、セット販売されているのを見かけるほどだ。

週生活総和は、過去一週間、自分が金日成と金正日の思想と意図に沿って、党が求める通りに生活できたかどうかをノートに書くことから始まる。ここで は間違っても、「100%正しく生活しました」などと書いてはならない。必ず自分の不足点を挙げ、自己批判しなければならないのだ。

生活総和の内容をノートに書く際には、冒頭に金日成や金正日の「お言葉」、あるいは「党の唯一思想体系確立の10大原則」の一節を引用し(現在なら金正恩のために改訂された「党の唯一的領導体系確立の10大原則」)、それに照らして自分が反省すべき点を挙げる。
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