◆一審では原告の市職員ら勝訴、二審では敗訴。現在、最高裁で審理

2012年5月、当時の橋下市長は教職員を除くすべての市職員3万4000人に入れ墨の有無の調査を強行した。(撮影・ 粟野仁雄)

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安倍首相が来年1月に衆院解散に踏み切るのではないかという見方が広がる中、大阪市長を退任して政界引退を表明した橋下徹氏の国政進出がささやかれている。一方で、橋下維新政治の「置き土産」に今も翻弄されている人たちが少なくない。

提訴から4年になる「入れ墨裁判」。橋下氏主導で実施された市職員への入れ墨調査が適法だったかどうかを争われた裁判は一審で原告が勝訴したものの、二審では敗訴。現在、最高裁で審理が行われている。

原告の一人、市交通局職員の安田匡さんは「自分の都合で中途半端に投げ出し、東京へ逃げるような人間には負けたくない」と語っている。

そもそも、この調査は「入れ墨をした児童施設の職員が子どもに入れ墨を見せて威嚇した」という報道を受けて実施した。ところが、後にこの報道は事実ではなかったことが判明した。

にもかかわらず、当時の橋下市長は「職員の入れ墨に関する苦情が多い」ことを理由に、2012年5月、教職員を除くすべての市職員3万4000人に入れ墨の有無の調査を強行した。

かつて関市長が助役に招いた大平光代弁護士に入れ墨があったことは知られている。しかも、入れ墨というと暴力団をイメージするという意見も根強いが、今では「タトゥー」という呼び名でファッションとして認知されつつある。

安田さんは「これまで問題がなかったのになぜそんな調査をするのか。思想調査と同じ偏見であり、人を選別するだけ。これは入れ墨のない者が声を上げるしかない」と考え、上司に入れ墨がないことを確認してもらった上で調査票の提出を拒否した。

同じく回答を拒否した市立病院看護師の森厚子さんも「身体のことを聞かれるのは嫌悪感がある。橋下市長のやり方は何が何でもやらせる強権政治。声を上げないと認めたことになると思った」

調査と回答を拒んだ6人は職務命令違反で戒告の懲戒処分を受け、安田さんと森さんが「調査はプライバシーの侵害にあたる」として、処分の取り消しを求める訴えを大阪地裁に起こした。

提訴後、安田さんは市交通局長に訴訟取り下げを迫られ、バスの運転業務を外された。その転任の取り消しを求めて提訴し、こちらは一審、二審とも勝訴している。

入れ墨裁判の一審は、「入れ墨情報は市の個人情報保護条例が定める差別情報にあたり、収集は条例違反」として、調査も処分も無効としていたが、高裁は一転、「差別情報にはあたらない」とした。

さらに、拒否した職員について「再三の指導にも従わず、職場の秩序を乱した」として市の懲戒処分に違法性はないと述べている。要するに、上司の命令が間違っていても黙って従わねばならないという判決内容である。

高裁判決を受け、当時の橋下市長はツイッターにこう書き込んでいる。「たくさんの訴訟を起こされましたが、一審はすべて同じ裁判官だったのです。朝日や毎日は橋下敗訴!違憲!と大喜びしていましたが、高裁では全て合憲です」(2015年10月15日)。もちろん、高裁で全て勝訴しているわけではない。

この4年を森さんはこう振り返る。「おかしいことをおかしいと誰もが思っていることを体現しているだけです」【矢野宏/新聞うずみ火】

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