最近、電話やメールで話を聞かせてもらった北朝鮮の人々の声の例を紹介しよう(北朝鮮国内に中国の携帯電話を密かに投入して連絡を取り合っている)。

「叔父だけでなく義兄(金正男氏)まで殺すなんて恐ろしい。人の道にもとる」という道徳的非難。

「あんな若造に政治や世の中のことの何がわかる。祖父(金日成)真似ばかりしている」という侮りと反発。

「水害復興作業や農村などで労働奉仕動員の負担が増えて困る。電気・水道の麻痺が酷くなった」という経済への不満。
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「些細なことですぐ拘束される。粛清も多く幹部たちはいつも震えている」という恐怖。

これらが、庶民~中堅幹部層がほぼ共通して、まず口にする金正恩氏と政権に対する評価だ。

内外で不埒に走る金正恩氏に、隣国の民の心はすっかり離れてしまったと思う(ただ、いわゆる特権層には我々はアクセスできていない)。

さて、最後に苦言を少々。敬愛する映画監督の森達也さんが書いた少し前の文章で、「北朝鮮の民心」に関するちょっと見過ごせない一文があった。月刊「ジャーナリズム」(朝日新聞社)の2016年4月号「闘うべき最初の相手は権力ではなく個よりも組織を優先する無自覚性だ」という評論がそれだ。

その中で森さんは、「(北朝鮮では)多くの人民たちは金正恩体制を支持している。もし普通選挙が行われたとしても、大きな変革は望めないだろう」と記している。

根拠も示さず「支持している」と断言しているが、このようなことは、少なくとも北朝鮮の人から意見を聞いて、あるいは、せめて最近脱北した人と会ってから書くべきだ。

推理を膨らませて断言までしているけれど、それでは、訳知り顔で「朝鮮半島四月危機説」をメディアで振りまいていた人たちと変わりませんよ。(石丸次郎)

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