闇市場をさまよう飢えた子供の姿。膨大な数の乳幼児が飢饉で命を落とした。1998年10月元山市にて撮影アン・チョル(アジアプレス)

 

100万単位の死者

越境者・難民の口から直接聞く北朝鮮の惨状は、取材前に日本にいて想像していた程度をはるかに超えるものだった。1997年夏、およそ40日間の取材を終えて帰国した時も、越境者・難民たちの証言をどのように理解すべきか整理がつかず戸惑った。

彼・彼女らの体験は特殊なもので、北朝鮮社会全体に当てはめて考えるのは無理があるのではないか?いや、しかし大変な数の死者が出ているのは間違いないだろう。100万単位かもしれない。だが、それを記事化するには根拠が弱くないか?

私の現地報告に北朝鮮問題の専門家は驚き、そして何人かは次のような疑問を呈した。

100万単位の餓死者が出ているとすると、米国が偵察衛星で把握できるはず。そのような情報がないので大量の餓死者が出ているとは信じがたい」

「北朝鮮のメディアを分析する限り、餓死者発生のような大事態に至っている変化は感じられない。まだそこまで深刻ではない」

朝中国境現地を取材したルポライターの金賛汀氏も、その好著『慟哭の豆満江』(新幹社)のなかで、餓死者が発生するほどの深刻な事態を認める一方で、

200万、300万もの餓死者が出たとするならば、その国が成り立つだろうか?」

と疑問を呈している。

そこには、隣国で100万単位の餓死者が出るという大惨事を、信じがたい、信じたくないという心理が当然あったと思う。私も97年夏の取材段階では、越境者・難民の証言に衝撃を受けたものの、飢饉の全体像をイメージできなかった。

だが、その後も現地取材を重ねインタビューする越境者・難民のサンプル数が増えるにつれ、あまりに残念な「無念の推測」ではあるが、95年から98年までの3年間に200-300万人の死者が北朝鮮で発生したことは間違いないと考えるようになった。そして後に、韓国の民間団体による大規模現地調査結果が発表され、私の「無念の推測」は外れていなかったと確信するに至った。
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