韓流ドラマ拡散に政権は鉄拳で応えた

韓国の人気ドラマや映画の海賊版は、2000年代前半から中国を経由して北朝鮮国内に流入するようになった。そのデジタルデータが複写されてCDやDVDで密かに販売され全国で大流行した。

韓国の実情を自国民が知ることを恐れた当時の金正日政権は、すぐに統制に乗り出した。映像ソフトの密輸、流通販売させた者には厳罰が科されるようになった。それでも根絶できず、金正恩政権になってからは、単に視聴しただけの人も長期拘留するようになった。

「韓国ドラマを3本見たら懲役1年という内部規定があると言われていて、実際、大勢が教化所(刑務所)に送られた。恐ろしくて、韓国ドラマを見る人は、この数年でほとんどいなくなったのではないか。それでも幹部連中は見ているようだが」
別の地域に住む取材協力者は、このように口を揃える。

「タクシー運転手」に対する取り締まりは別格のようだ。「賄賂も通じず無条件に教化所行きだと言われている」と、前出の茂山郡の協力者は言う。その理由は、この映画が韓国の民主化闘争をテーマにした作品であるためだと思われる。

「タクシー運転手」の舞台は1980年に発生した光州事件。民主化を求めるデモの鎮圧に軍が投入され、市民と学生が対抗して立ち上がり、その一部が武装化して銃撃戦が発生。死者154人、行方不明者70人、負傷者1628人に上る大惨事となった(真相究明調査委の発表)。

独裁打倒、民主化を求めて闘う韓国の人々の姿を描いた映画が、密かに若い世代の間で拡散していることに、当局は衝撃を受けたのだろう。保安署(警察)、保衛局(秘密警察)を動員しての徹底捜査が続いているという。(カン・ジウォン/石丸次郎)

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている