アスベスト規制の強化をめぐり議論が続く環境省の有識者会議。ときどき新聞の見出しに「規制強化」「規制拡大」の文字が躍る。だが、「むしろ規制緩和だ」との声が上がる内容が含まれていることは知られていない。(井部正之/アジアプレス)

9月2日の環境省・石綿飛散防止小委員会には珍しく各メディアが取材したが、規制“緩和”について報じなかった(井部正之撮影)

◆報じられない規制“緩和”

環境省の中央環境審議会・石綿飛散防止小委員会(委員長:大塚直・早稲田大学大学院法務研究科教授)が9月2日に示した来年に見込まれる法改正に向けた方針案は「規制強化」として大きく報じられた。

方針案が提示された会合では、めずらしく大手メディアが多数傍聴した。だが、そうした見出しとは裏腹に、「規制緩和」と指摘される提案を同省が併せて明らかにしていたことを報じたメディアは1社もなかった。

問題となったのは、同省が提案したアスベスト除去作業における監視方法である。委員会後、筆者が同省の提案内容を老舗のアスベスト除去業者や分析機関などに伝えたところ、こう口をそろえた。

「それ、実質的に規制緩和ですよね」

現在の規制では、吹き付けアスベストなど「レベル1」やアスベストを含有する断熱材など「レベル2」建材を除去する場合、まず作業現場をプラスチックシートで隔離養生。さらに負圧除じん装置で現場内を減圧して外部にアスベストが漏れないようにしつつ、高性能(HEPA)フィルターで捕集して、清浄な空気だけを外部に排出する。こうした厳重な飛散防止対策のうえで、防じんマスクや防護服を着用しておこなう。

除去現場内では高濃度のアスベストが飛散しており、外部に漏れたりしたら周辺の人びとに発がん物質を吸わせることになってしまう。だからこそ、厳重な飛散防止対策を講じるわけだ。

◆除去作業4割超でアスベスト飛散

問題は、実際に負圧除じん装置の整備不良で同装置の排気口からアスベストが垂れ流しになったり、負圧管理が不十分だったりして現場の出入口でエアシャワーなどが設置された「セキュリティゾーン」出入口からアスベストが飛散する事例が相次いでいることだ。

同省の全国調査から集計したところ、2010~2018年度までの9年間で計68カ所の除去工事で測定し、4割超の28カ所で空気1リットルあたり1本超のアスベストが現場から漏えいしていた。調査への協力に同意した現場で通告のうえ実施したもので、抜き打ち検査ならもっと悪い結果のはずだ。

さらに同省が都道府県などによる独自調査をまとめたところ、2014~2017年度の4年間で66カ所で同様にアスベストを飛散させたとみられる事例があったことを9月2日の小委員会で報告している。

アスベストを垂れ流しにする事故が続出しているにもかかわらず、建物などの改修・解体時におけるアスベスト規制を定める、同省所管の大気汚染防止法(大防法)や厚労省所管の労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)では、もっとも危険性が高いとされる吹き付けアスベストの除去であっても、作業現場内や外部への飛散について測定する義務がない。

これは諸外国では当たり前に義務づけられ、実施されていることだ。

隔離養生や負圧除じんがきちんと機能しているかを確認するため、諸外国では作業現場内や作業者ごとに、外部への飛散について測定する義務を設けて毎日測定している。作業時のアスベスト濃度が高濃度の場合、防じんマスクや防護服を着用していたとしても曝露量が増加するリスクが高まるうえ、周辺への飛散があった場合に飛散濃度・量もそれだけ増える。そのため、作業現場内のアスベスト濃度を管理して、できるだけ低濃度に抑えるのである。

ところが、日本では測定義務がなく、防じんマスクなどを装着している場合、作業現場内のアスベスト濃度管理が不要とされており、ほとんど形式的な散水のみ。アスベストの曝露や飛散を減らす仕組みがないのだ。そのため、ごく一部の優良業者を除いて、除去現場内のアスベスト濃度がきわめて高く、空気1リットルあたり10万本などざらで、ひどい現場では同100万本を超える。その結果、漏えい時も高濃度となりがちだ。
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