(参考写真)鴨緑江で洗濯する女性。川の水は飲用にも使う。北朝鮮の衛生状態は劣悪だ。2017年7月中国側から撮影アジアプレス

金正恩政権は4月5日時点で「新型コロナウイルス感染者はゼロ」という発表を続けている。一方、韓国メディアを中心に、北朝鮮内部消息として感染者・死者が発生しているという情報も少なくない。

アジアプレスでは、1月の中国武漢市でのコロナウイルス拡大の発表後、北朝鮮国内の平安北道(ピョンアンプクド)、咸鏡南・北道(ハムギョンナム・プクド)、両江道(リャンガンド)、平壌(ピョンヤン)で情報収集を始めた。

「感染者発生」の噂は広く流布していたものの、確かな情報にはたどりつけなかった。その大きな理由は、中央政府のかん口令もあったと思われるが、感染の有無を調べるキットや機器がまったく足らず(あるいは地方都市にはまったくなく)、医療・防疫当局も、判定しようかなかったためだと考えている。

3月後半、咸鏡北道に住む取材協力者が、羅先(ラソン)市と第三の都市・清津(チョンジン)市で調査したところ、感染者発生を疑わせる報告があった。協力者は次のように伝えてきている。

「清津市の浦港(ポハン)区域と水南(スナム)洞を中心に、2月に入ってから咳や高熱が出る症状の人が増え続けているそうだ。だが、病院や診療所では結核や気管支炎、風邪と診断して、解熱剤や風邪薬を服用するよう処方するだけで、特別な対処をしていないことが分かった。清津市内のアパートに暮らしている複数の知人によれば、伝染する病気によって自宅で死亡する人が出続けており、『コロナにかかって死んだ』と考えている人が多い」

◆中国との交易拠点・羅先から「侵入」か

清津市の北側は経済特区の羅先(ラソン)市。ここは東部地域における中国との最大交易拠点で、北朝鮮で唯一、中国車両の市内乗り入れが認められている。ビジネスマン、観光客の入国が西部の新義州に次いで多い。数は正確には分からないが、年間数万人に及ぶと見られる。

経済特区の羅先市は他地域と有刺鉄線で厳格に区分けされており、他地域からの出入りには許可証が必要だ。調査した協力者は、清津市でのコロナウイルス感染の可能性を、次のように見立てている。

「1月末に中国国境が封鎖されて、羅先では中国人と接触のあった人は全員隔離された。清津市との出入ゲートがある厚倉(フチャン)も閉じられ、羅先に入れなくなったのだが、清津市に出ることはでき物流も止めていなかった。羅先市内の様子はよくわからないが、感染者発生の噂が絶えない。1月末から2月前半に羅先から清津に戻った人から拡散したのではないか」
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