(参考写真)市場に買い物に出てきた将校。2013年9月に清津市で撮影アジアプレス

◆街中から兵士の姿が消えた

金正恩政権は2月以降、コロナウイルスの感染を防ぐため、軍兵士を民間人と接触させないよう部隊の隔離を徹底してきたが、北部地域に住む複数の取材協力者によれば、5月中旬になった現在も、街中に兵士の姿はほとんどなく、稀に見えるのは将校と、軍人を取り締まる警務兵(憲兵)だけだという。また、外出が許されない兵士たちの栄養状態が悪化していることが分かった。(カン・ジウォン/石丸次郎)

◆兵士の社会接触を遮断

人民軍にコロナウイルスの影響は出ているだろうか? アジアプレスでは5月に入って国内に住む取材協力者と共に調査を始めた。5月13日に、その一報が届いた。
「部隊の外で兵士集団を見かけるのは、副業地(軍用の田畑)で作業する兵士くらいだ。彼らは駐屯地から農地に通うのではなく、畑脇に建てたテントで寝起きさせられ部隊に戻らないよう管理されている。今は、『農村支援』の真最中だが、今年は協同農場への兵士の動員は行われないだろう」

北朝鮮の国民にとって、軍隊の食事が劣悪なのは常識だ。100万人に及ぶ兵士を食べさせる食糧を政府が確保できない上、軍内の不正で食糧が横流しされるのが原因だ。

特に、4月から始まる「ポリコゲ」(春窮)と呼ばれる収穫の端境期に栄養失調者が増える。そのため、この5~6年、経済的に余裕がある家庭では、軍服務中の息子や娘に仕送りするケースが増えている。方法は、子供が所属する部隊近くの民家に現金を預け、外出時に立ち寄らせてパンや豆腐などの間食を食べられるようにするのだ。また将校が金をとって私宅で栄養補給させるともある。裕福な人は携帯電話を預けることもある。

ところが、コロナウイルス感染予防のために外出が禁じられ、兵士たちの栄養補給が困難になった。調査した協力者は、軍隊に栄養失調が蔓延しているとして次のように説明する。

「江原道(カンウォンド)や黄海道(ファンヘド)などの部隊に入隊した子供がいる人に聞いたところ、部隊の外に出られなくなって、3月から子供とまったく連絡が取れていないケースが多く、皆、健康を心配している。一方で、コロナために経済活動に打撃を受けて、子供に送金できなくなった人も多い。金を取って間食を食べさせていた駐屯地周辺の住民たちが、倍の金額を要求するようになったという人もいた。こっそり将校に頼む場合は、追加で賄賂を渡さなければならないのだそうだ」