◆金与正の「ナンバー2化」は一族支配の危機管理策

2013年12月、最大の実力者で、金正日の実妹・金敬姫の夫だった張成沢(チャン・ソンテク)が粛清・処刑された。その理由は、「党の唯一的領導体系を確立する事業を阻害する反党反革命的宗派行為」と「国家転覆陰謀行為」であった。張成沢が自身の勢力を伸長させて金一族支配を揺るがせたとみなされたのである。

1984年生まれとされる金正恩には、定かではないが子供が3人いるといわれる。長子はまだ10歳になるかならないかだろう。子供の一人に後継作業を始めるまで、少なくとも10数年が必要なはずだ。その時までに、金正恩が死ぬか長期にわたって執務不能な状態になった場合はどうするのか? 金与正の「ナンバー2化」が進められているのは、「白頭の血統」による統治=金一族支配を「永遠」「純潔」に守るための危機管理策だと考えるべきだろう。

シンガポールで行われた初の朝米首脳会談に同行し声明文書の交換役を担う。相手はボンペオ国務長官。2018年6月12日。シンガポール通信情報部写真。

◆金平一の可能性は? 「女にはできない」説は?

一部では金正日の異母弟で、昨年チェコ大使を退任して帰国した金平一(キム・ピョンイル、1954年生)が後継者になる可能性を主張する向きもあるが、絶対にあり得ないだろう。

金平一は、金日成の後妻の金聖愛(キム・ソンエ、1928年生、25年生説も)との間に生まれた。容貌が金日成と似ている。1970年代初めに金聖愛が朝鮮民主女性同盟を基盤に権勢を振るうようになると、将来の有力後継候補と目された時期もあったが、金聖愛が金正日との権力争いに敗れた後は疎外され、1979年からずっと東欧諸国で外交官として赴任。昨年、駐チェコ大使を退任して40年ぶりに帰還した。

外部世界から見れば金平一も広義の「白頭の血統」の一員ではあるが、金正日-金正恩とは別系の傍流、キョッカジ(別枝)であり「純潔」ではない。また、彼を支える勢力は国内に全く存在しえない。もし、少しでも金平一を後押しする兆しが見えれば、「唯一的領導体系」違反で木端微塵にされるだろう。

北朝鮮社会が男尊女卑の風潮が強いことをもって、金与正の後継は難しいのではという指摘もある。これまで1000超の北朝鮮の人々を取材した私の実感で言うと、確かに日本、韓国、中国朝鮮族社会よりも、北朝鮮社会のジェンダー不平等はずっとひどい。「女が指導者なんて」という懐疑は出てくるだろう。だが、現実には金与正以外の選択肢は見当たらない。女だからという侮りを封じ込めるためにも、露出を伴う「ナンバー2化」作業は必要だったのだ。(敬称略)