吉田敏浩×新倉裕史 対談(6)
いじめ、しごきや過酷な労働などが原因となって生じる自衛官の自殺や過労死。生身の自衛官が直面している人権問題を考える。

◆他人事と見なしていてはいけない
吉田 過労死といえば、テロ対策特措法によるインド洋・アラビア海派遣で、米軍艦艇などへ洋上給油活動をおこなっている海上自衛隊員のひとりが、一昨年の5月に、長時間勤務による過労とストレスから心筋梗塞を起こして亡くなっていますね。

新倉 護衛艦「さわかぜ」乗組員のW海曹長(当時51歳)ですね。亡くなる前の1ヵ月間の残業時間が143時間もあり、しかも気温が摂氏40度以上という苛酷な環境での仕事です。後に公務災害(労災)と認定されました。

インド洋・アラビア海派遣は長期にわたる大変な任務です。寝泊りするのも同じ艦内で、精神的にオフの日がないんです。マスコミの報道でも、派遣から帰ってきた自衛官が、「自ら進んでまた行きます」とコメントしているケースはほとんどありません。

作業は、労働としても大変なうえに、何のためにやっているのかという根本的な疑問もあると思います。派遣隊員のなかから、かなり正直に「できれば行きたくない」「二度と行くものか」という声が上がるのも、そういう仕事をさせているからだと思います。

このように多くの自衛官が本音ではやりたくない仕事に従事しているんです。やりたくない仕事に従事させていることから、すでに人権無視は始まっていると思います。
イラクではさらにしんどい仕事になるでしょう。自分たちの陣地にいても精神的なオフはないでしょう。肉体的にも精神的にも相当深刻なダメージを受けると思います。

吉田 国家によって自衛官の生命と人権が尊重されない時代のありようは、やがて自衛官ではない他の多くの人たちの生命と人権も尊重されない社会が到来するということにつながってくるんですよね。

新倉 自衛官でなければできないという仕事は、軍事力を切り札とする憲法の外の仕事ですから、本来、だれよりも誰もしてはいけないんです。「自衛官でなければできない仕事だから」というのは、容認された言葉として流布していますが、そもそもそこからおかしいと思います。

吉田 たとえ政府が自衛官を国策のために使い捨ての駒として使おうとする意図があっても、「それはおかしい」という意識が社会全体にあればそのような風潮にはならないはずです。これはマスコミ、ジャーナリズムの責任で、我々ジャーナリストにも問われてくる問題だと思います。
過労死・過労自殺の問題が実は誰にとっても無縁ではないように、自衛官が直面している不安や疑問、生命の危険、人権の問題も他人事と見なしていてはいけませんね。

◆20歳になった自衛官へ
新倉 平和運動にとって自衛官の人権問題は遅れているテーマかもしれません。
例えば、横須賀では7~8年前から20歳になった自衛官が市の成人式に参加するようになりました。

ゴムボートに乗り、自衛官に呼びかける新倉氏(撮影:ヨコスカ平和船団)

有事法制や周辺事態法につながる日米新ガイドライン(日米防衛協力の指針)により、自衛隊が公然と「軍隊」として登場してくる過程のなかでもう平気だろうという判断があって、自衛官が成人式に参加することを打診してきたんだと思います。その意味では20歳の自衛官も政治的に利用されています。

この問題について僕らはどうするか議論しました。過去には平和運動グループが自衛官の成人式出席に反対することもありました。しかし、僕らは自衛官に対して「来るな」とは言えないという結論に達しました。自衛隊の思惑を踏まえたうえで、成人式に参加したいという自衛官の気持ちは、それはそれで尊重すべきだと考えたわけです。

そこで、反対するかわりに、「20歳の自衛官の皆さんへ」という手紙を毎年手渡しています。手紙では『あたらしい憲法のはなし』の9条の部分を引用しながら、このように呼びかけています。

「はじめまして、私たちは「ヨコスカ平和船団」そして「自衛官・市民ホットライン」に参加する市民です。20歳になった自衛官の皆さんに、ぜひ読んでほしいものがあって、同封しました。今から56年前に文部省が作った副読本『あたらしい憲法のはなし』です。小学生向けに作られたものですが、これを読むと、今の憲法がどのように当時の人々に迎えられたのかが、リアルに伝わってきます」

「皆さんのご存じのように、日本はアジアで侵略戦争をしました。多くのアジアの人々の命を奪い、土地を奪い、文化を奪いました。また、同時にこの戦争に駆り出された日本人も、たくさんの命を落としていきました。そのことの反省の上に、私たちの憲法は作られました。『あたらしい憲法のはなし』は9条の戦争放棄について、次のように書いています」

「こんどの憲法では、日本の国が決して二度と戦争をしないように、二つのことを決めました。その一つは、兵隊も軍隊も飛行機も、およそ戦争をするためのものは一切持たないということです。(中略)しかし皆さんは決して心細く思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの国より先に行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません」

このように副読本を紹介したうえで、しかし今、大きく時代は変わってしまい、自衛隊は戦地へ兵力を送り出すまでになってしまったことを説明します。そしてこう訴えています。

「私たちは皆さんに『平和憲法』に帰ろうと呼びかけます。皆さんが自分自身の命を守るために、憲法を取り戻してほしいのです。皆さんは憲法9条が自衛官の命を守っていると考えたことはありますか。憲法9条が現に今、力を持っているから、自衛隊が交戦することなく、自衛官の戦死が食い止められているのです。この現実を忘れないでください」

「自衛隊が危険な方向に行こうとしているとき、その中にいる自衛官の皆さんこそが、誰よりも平和憲法を生かすことができる。私たちはそう思います。災害救助などの貴重な経験と若い力。それらをもっと有効に生かすことができる組織に自衛隊を変えていこう。憲法9条はそう皆さんに訴えています」

吉田 日本がアメリカのように海外で戦争を起こす国にならないように、憲法9条が歯止めになっている。憲法に源をもつ平和力が、目に見えないかたちで自衛官を守っている。そうした事実を知ってほしいということですね。( 7へ続く >>>