◆処分をにおわせて押さえつける
A教諭は、この10月23日の通達を「教育の大転換期」と受け止め、この通達を受け入れることはできないと即座に思ったと言う。その理由は、「自分たちが自分たちで考える教育」というものが一切できなくなる行末を案じたからだ。

「冗談じゃない、ここまで定める権利がどこにあるのか」
通達を受け、A教諭の職場である都立学校内でも批難の声があがり、A教諭を含め多くの職員が卒業式においては「不起立を」と呼びかけあったと言う。

ところが、その数週間後には、「不起立」を口にする教員の姿が消えていった。
この通達が教育庁から出されてからしばらくして、各教職員の名前がそれぞれに記された「職務命令書」なるものが校長から教員に配布された。その書面には、「通達に基づき、入学式・卒業式において実施要領に反する者は処分する」と書かれていた。

「処分という言葉が出てくると、見事に変わってしまうと言うか…。将来の生活に支障が出るからと、今まで座ろうと言っていた人たちが起立する方向へと流れていってしまったんです」
A教諭は、それまで一緒に座ろうと呼びかけていた教員たちへ、「再度考え直してみないか」と何度か話を持ちかけてみた。しかし、首を縦に振る人はいなかった。なぜならば、処分を受ければ昇給が遅れ、退職金や定年後の再就職先にも支障が出ることになるからだ。

「もちろん、処分する方が悪いと私は思う。そうやって力ずくでやってきて、人の生活までを破壊するわけでしょう。だけど人間って、処分とかの形を出されると、そうやってある一定の方向へとなびいていってしまうものなのか、と。そのことに恐ろしさを感じたのよね」
A教諭が勤める都立学校の教職員数は、約80人。式には、児童/生徒とその保護者、事務職員合わせて約150人ほどが集まる。A教諭は、たったひとりで「不起立」することを決意した。
(2004年04月30日 中平真由果)