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【停車した列車にコチェビが集まってくる】(2005年4月/撮影:李ジュン)ASIAPRESS

【停車した列車にコチェビが集まってくる】(2005年4月/撮影:李ジュン)ASIAPRESS

私はなぜ北朝鮮を脱出したのか(11)
一瞬にして、私自身と私のいる世界のことを、あまりにもはっきり分からせたその同僚の家を出ると、私の歩みはそのままこの世と別れていく方に向かったようだった。
人生は意味を失い、人間として持つ本能的欲求も、社会的なものであれ生理的なものであれ、すべてその意味を失った。

すでに"私"と名乗る社会的存在は、党組織からも無視され、大学という職場からも排斥され、唯一の私生活空間であった家も失った。もはや、家族とまで離れ離れになった。

ついに、最後の「個人財産」である自らの人格までが、捨てるかどうか問われる瀬戸際に追い立てられていたのだった。
意識もその役割を放棄した。力の源である意欲も意志もすべて抜け出た。
そのような状態が続いて3日間ほどが過ぎ、意識は完全に私からを離れた。

その時の幻は、今でもぼんやり記憶している。初めは、生物なのか無生物かわからない存在が私に迫ってきて、私はとても苦しい状態の中にいた。
そばで誰かがしゃべる声がときおり脳に伝わってきているようでもあった。
きりがなく現れる抽象派芸術作品でみたような幻影の世界のどこかへと向かって、体はさ迷って動きつつあった。

行ったことがあるようなないような、とうていはっきりしない場所がどんどん新しく現れた。そうするうちに、いつのまに自分が地下の狭い管の中に入ったように圧迫する闇に包まれてしまった。
息がつまり、からだもまったく身動きできない重苦しい感覚に、叫びたくても声は出ず、手足をいくら動かそうにも何の効果もなかった。
徐々に気力も無くなり、頑張ることも諦めてしまった。

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