平壌市楽浪区域のアパート街にできた露天市場。今や平壌市民ですら、市場に参加して生きていることを物語っている。2007年8月 リ・ジュン撮影

平壌市楽浪区域のアパート街にできた露天市場。今や平壌市民ですら、市場に参加して生きていることを物語っている。2007年8月 リ・ジュン撮影

※本稿は「論座」(朝日新聞社)2008年8月号に書いた「北朝鮮の大変化を追尾せよ」を再録したものです。

北朝鮮内部に住む人たちとチームを組んで取材するようになって5年になる。
彼/彼女たちがビデオカメラや録音機で取材してきた記録を、日韓英米などのメディアでニュースやドキュメンタリーを制作してきた。いわば、北朝鮮内部の人々との共同作業である。

このような手法を取るようになったのは、北朝鮮取材には、外部の人間には逆立ちしても超えられない、あまりに高い壁があることを痛感してきたからだ。
北朝鮮に入国しても、人々と制約のなしに本音を語り合うこともできないし、案内員(という名の監視)抜きに一日たりとも自由に歩き回ることも適わない。北朝鮮はどうなっているのか、その核心に迫り正体を掴むためには、北朝鮮内部に住む人々一緒に仕事をしていくしか方法はない、それが北朝鮮取材を始めて15年になる私なりの結論である。

今年4月、TBSのニュースで「現在6人が活動 北朝鮮の覆面ジャーナリストが撮った平壌の現実」という若干大仰なタイトルで、北朝鮮の変化について特集を制作放映した。

北朝鮮の取材チームが平壌に入り、外国人の立ち入りが困難な地区の裏通りの様子をビデオに収めたもので、平壌市民がアパート街に大きな闇市場を開いて商売に精を出している様子や、厚底サンダルを履く女子中学生たちの姿など、これまで外部の人間の目に触れることのなかった、平壌市民の日常の暮らしの一端を淡々と報告したものだった。
この報告を見た人から大変な剣幕で抗議電話があった。

 北朝鮮変化について行けない人々
「映像を見ると皆そこそこいい服を着て市場にも物が溢れている。北朝鮮は食糧が足りずに飢えている国であり、金正日独裁のもとで民衆が自由な経済活動をするなんてありえない。北朝鮮の手先のようなウソを報道をするな」
電話の主はこう言うのであった。

一方で、北朝鮮を何度も訪れたことがあり、専門家を自任する人から、最近次のような異論をぶつけられたことがあった。
「なるほど、あなたが言うようにいろいろ北朝鮮に問題はあるのだろうが、それでも、結局、国民は金正日政権を支持しているではないか」
これには、さすがに絶句した。90年代には100万単位の餓死者を出した国である。
服装も髪型も統制され、日々の行動は人民班(末端の行政組織)に報告しなければならない。移動の自由も、表現の自由もなく、ぎりぎりと抑圧される日が続いている。

そんな国に暮らすことのしんどさに想像が及ぼさず、北朝鮮の人々は指導者を支持して我慢しているに違いないなどと言うのは、外部の人間の実に手前勝手な思い込みに過ぎない。

どうも私ちたちは北朝鮮について考えるとき、現実に起きている出来事を、過去の「北朝鮮モデル」や、推理上のイメージに当てはめて解釈しがちである。
日本でも韓国でも典型的に見られる「北朝鮮モデル」とは、例えば、「北朝鮮は飢餓の国である」とか、「絶対権力者たる金正日が、万能の神のように北朝鮮のことをすべて掌握・決定し動かしている」とか、「北朝鮮人は洗脳されたロボットのような人々であり、政権に従ってついていくしかない存在だ」というものである。
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