ミング兄さんの悲鳴
(文) チャン・キルス

こんな世の中で生きるのなら、死んだほうがマシだ 今この瞬間も、北朝鮮では公開銃殺が止むことはありません。強盗、殺人、犯罪の大部分は単純に食べ物を手に入れるために発生します。コメひとすくい、ジャガイモ数個のために人を殺めてしまうことはしょっちゅうです。 ―ハンギル(キルスの兄)

こんな世の中で生きるのなら、死んだほうがマシだ
今この瞬間も、北朝鮮では公開銃殺が止むことはありません。強盗、殺人、犯罪の大部分は単純に食べ物を手に入れるために発生します。コメひとすくい、ジャガイモ数個のために人を殺めてしまうことはしょっちゅうです。 ―ハンギル(キルスの兄)

 

安全員はミング兄さんの手錠を解いた。そしてぼくに問いかけた。
「トンム(同務。注・北朝鮮で一般的な呼びかけ。自分より年下か同年の者に向けて使う)、一人は放して、一人は労働鍛錬所(注・居住地を離れて流浪したり、社会規律違反した者を再教育する短期強制労働キャンプ)に行って3ヶ月、働かせないとダメだな」
それからミング兄さんを連れて出て行った。

彼らはぼくにやわらかい口調で問いかけ始めた。
「中国に行こうとなぜ約束したんだ?」
「どこで会って、どうやってここまで来たんだ?」
ぼくは、それでも、ミング兄さんとは駅前で会って、よく知らない人だと言った。しかし、しばらくすると外から「おうー」と悲鳴が聞こえてきた。ミング兄さんが横の部屋で殴られている音がする。

後にミング兄さんに聞いてみたところ、外に放してやると言ったのに、暗い部屋に閉じ込め、一言話すごとに、15回以上殴られたということだった。
どれほど問いただしても、ぼくが中国に行ったことがないというので、彼らも疲れたのか、部屋の中に入り、タバコを一服吸っているようであった。

ぼくはその時、[こんなに殴られ続けたら死ぬかもしれない]と思った。機会をうかがい逃げ出す決心をした。
ぼくは安全員一人がタバコを吸っているときに、廊下の横に置かれていた濡れた服とリュックを手にとった。そして安全員にそれを覆いかぶせた。
ぼくは少し開いていた門を蹴とばし、逃げ出した。

葦畑を通り過ぎ、木の柵を飛び越え、無我夢中で走った。しかしいくら探しても隠れるだけの場所がなかった。その上、つかまってからずっと何も食べられなかったのですぐに力が抜けてきて、結局いくらも逃げられずに、追いかけてきた安全員につかまってしまった。
ぼくはつかまると同時に声を出して泣き出した。そして行かないと踏ん張った。
「こいつ、大げさに」

安全員は僕のえりをつかみ、引きずって行った。ぼくは引きずられながら「父さん母さん助けてください」と声をあげた。
しかしだれ一人として気にとめようとする人はいなかった。ただ犬が吠える声だけが聞こえた。ぼくが再び連行されていくと、他の安全員たちはいっせいにぼくを見つめた。

「おそれも知らずにおれの顔に服をかぶせて逃げ出すんだから、相当なガキだな」
「こいつの目の動きを見てみろよ」

彼らはぼくから離れず、殴り踏みつけ、ひどい目にあわせた。手錠をはめている手と手の間の鎖をやたらに踏みつけた。
木の棍棒で頭を殴られた時には、本当に星が見えた。あまりにも強く殴られて、頭が割れて血が吹き出した。何もできないまま、このまま死ぬのかもしれないと思った。

生まれてからこれほどまでに殴られたのは初めてのことだった。彼らは、正直に白状しなければ労働鍛練隊に送ると、何度もどなりつけた。
それから一人だけ残って皆が出て行き、少し後にまた他の人が入ってきた。彼は、ぼくたちにも聞こえるように尋問をする男に、大きな声で言った。
「トンム、こいつらは明日銃殺だとよ」

「今日、正直に話すと殺しはしないが、嘘ばかりつくと銃殺だ」
そう言いながら彼らは、
「お前たち、このままだと明日銃殺だぞ。死んでしまうほどのことなのか。早く正直に話してしまえば許してもらえるのに」
と、ぼくらに言った。
(つづく)

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