豚を賄賂にして豆満江をわたる ぼくは中国に逃げ出して、家族を救い出すために北朝鮮に舞い戻りました。そして、もう一度中国に出ようとしましたが、うまくいきません。豆満江沿いの村に住んでいたおばあさんを訪ねてすがりました。おばあさんは全財産と言ってもいい、一頭の豚を引き連れて国境警備隊を訪ね、軍人に差し出しました。軍人たちは豚を受け取りぼくの渡江に目をつぶりました。 ―キルス(絵)

豚を賄賂にして豆満江をわたる
ぼくは中国に逃げ出して、家族を救い出すために北朝鮮に舞い戻りました。そして、もう一度中国に出ようとしましたが、うまくいきません。豆満江沿いの村に住んでいたおばあさんを訪ねてすがりました。おばあさんは全財産と言ってもいい、一頭の豚を引き連れて国境警備隊を訪ね、軍人に差し出しました。軍人たちは豚を受け取りぼくの渡江に目をつぶりました。 ―キルス(絵)

 

豚一頭と引きかえの脱出
(文) チャン・キルス
ぼくは、豆満江近くに住んでいたぼくのおばあさんにこっそり会いに行った。
ぼくはこの間の事情をおばあさんに話した。そして、必ず生きて中国に渡りたいと言った。

結局、おばあさんは、家で飼っていた20キロの豚一頭を、国境警備隊に賄賂として差し出すことにした。その賄賂の代価として、警備員は豆満江を渡ることができるよう目をつぶってくれたのである。
北朝鮮での10日間を振り返ってみた。

いまいましくて歯がゆかった。もう二度と北朝鮮には来ないと心に誓った。しかし一番残念だったのは、北朝鮮に残っている父さんのことだった。
食べ物がなく、ひもじい思いをしているだろう父さんのことを考えると、涙で目が曇ってしまった。

そして中国でつかまって強制送還され、今ごろ北朝鮮のどこかの収容所に閉じ込められている伯母さんのことを思った。また、ろくに食べることができないまま十年間も軍隊服務をしている兄さんのことを思い出した。
そして、北朝鮮のすべての同胞がかわいそうに思えてしかたなかった。

ボロをまとい食べるにも事欠きながら、いつになったら良い日が来るのか...と、首を長くして待っている北朝鮮の民衆たち......。
今でもぼくは、最後に川を渡る時のおばあさんの姿が目に浮かぶ。おばあさんの唯一の財産とも言える豚一頭。ぼくのために、何の値打ちもない孫のために、その貴重な財産を何も言わずに出してくれたおばあさん。

いつになったらおばあさんに恩を返せる日が来るのだろう。その時までおばあさんは生きていてくれるだろうか。
その日は、いったいいつ来るのだろう。
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