「天安」艦撃沈事件で北朝鮮経済は困難さを増すと予想される。写真は、平壌の街をさまようホームレスの兄弟。2008年9月平壌市にて。撮影:張正吉cアジアプレス、チャン・ジョンギル

「天安」艦撃沈事件で北朝鮮経済は困難さを増すと予想される。写真は、平壌の街をさまようホームレスの兄弟。2008年9月平壌市にて。撮影:張正吉cアジアプレス、チャン・ジョンギル

 

哨戒艦「天安」の沈没事故は、北朝鮮による魚雷攻撃によるものだと韓国政府が断定した。攻撃が失敗、露呈すれば国際社会の厳しい非難は免れないし、外国企業は北朝鮮への投資を控えようとするだろう。なぜ今、どう考えても無謀な行動を取ったのだろうか。
結論から言うと、金正日政権がいよいよ混迷を深め、制度疲労を起こし弱体化していることが、最大の原因だと思われる。

金正日政権は、今あらゆる分野で窮地に立っている。経済はぼろぼろ、民心の離反は深刻だし、後継体制は一朝一夕にはできない。国際的な孤立は相変わらずだ。金総書記自身も健康不安を抱えている。権力者の間では相当な焦燥感が広がっていると思われる。

李明博(イ・ミョンバク)大統領が登場してからの約二年半の南北関係はずっと韓国ペースで動いてきた。昨年11月の西海での銃撃戦では、挑発した北の軍艦が一方的にやられてしまった。

金剛山観光の再開問題では、金総書記自らが事業を担ってきた韓国企業・現代アサンの玄貞恩(ヒョン・ジョンウン)会長と再開合意をしたのに、韓国政府は「合意は企業とではなく当局者間でやるもの」として認めなかった。
また、北朝鮮は金総書記と李大統領の会談を、コメと肥料の大規模支援を条件に提案したが断られてしまった。

首領絶対主義の論理でいうと、金総書記の権威がこのように傷つけられることは由々しきことである。このため軍も党の幹部たちは黙認していると、忠誠心が足りないと批判の対象になり、下手をすると粛清されたり、政治犯にされかねない。偉大なる指導者の権威を傷つける韓国李政権に対しては、断固とした行動に出なければならないとする忠誠心競争が、軍や党の幹部の間で繰り広げられてきたはずである。

軍部からは軍事的な行動で韓国の李政権に一泡吹かせようという提議が金総書記のもとに上がってきたはずだ(北朝鮮では下から上がってくる政策提議を金総書記が裁可する「ボトムアップ」式の政策決定が多い)。

体制運営に余裕があった時代は、金総書記や側近たちは、国際情勢を読み、得失を計算して、下から上がってくる無謀な提議の採否を決めてきたはずである。ところが今回、総書記はゴーサインを出した。焦りによりどんどん視野が狭窄になり、指導部内で正常な情勢判断や計算ができなくなっているのではないか。
今回の事件には、金正日体制の混迷と弱体化がはっきりと現れている。(石丸次郎)

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