チェ・スミさんは大学への進学を、教師に送る賄賂が足りなかったため断念したと言い、ペ・ヨンスさんは生活難のため中学校にも進学できなかった。ところが「金持ちの奴ら」は、幹部たちに賄賂を送ることでいい目に会うのが当たり前になっているのである。
失望と恨み
チェ・スミさんもペ・ヨンスさんも精神的にかなり追い込まれているということが、強く印象に残った。戦争が起きて死んでしまったほうがましだとか、お酒を飲んで死んでしまいたいという言葉には、この先北朝鮮社会が良くなる見通しがもてないため、将来に対して絶望していることや、できることなら政権がとっとと倒れて欲しいという気持ちが激しく現れている。
温厚に話していた二人が、突然意を決したように死んでしまいたいと口にする姿からは、深い失望が見て取れた。
政府が責任を果たさずに、民衆から搾れるだけ搾り取ろうというのでは不満がたまるのも当然だが、チェ・スミさんはその感情を「恨み（ハン）」と表現し、北朝鮮のことを「世界で一番立ち遅れている」と言った。
素朴な将来への希望
チェ・スミさんもペ・ヨンスさんも将来の希望については、家族と共に幸せに暮らせれば良いと語った。そのためには、誰が政治をしようが、民衆が食べていけるように門を開くこと（改革開放）が必要だということをしっかり認識していた。若さを十二分に発揮でき、働いた分だけ見返りがある社会。これこそが彼らの望む社会である。それは改革開放が成ってこそ可能だということを、北朝鮮社会の最下層でもがいている若者はちゃんと理解していた。
（おわり）
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