「人造肉」という不思議な名前の食材が北朝鮮にある。庶民の間ではなかなかの人気だ。
「インジョコギ」と発音する。
アジアプレスの北朝鮮内部のパートナーたちが撮影してきた市場の映像に時折映っている。見た目は幅5センチぐらいの帯状で、それを一抱え分ほどくるくると巻いて売っている。色は黄銅色だ。どうやって食べるのか、材料は何なのかさっぱり見当がつかない代物だ。

平安南道の市場で女性が人造肉(インジョコギ)を巻いている。2010年6月 撮影 金東哲 (C)(アジアプレス)

平安南道の市場で女性が人造肉(インジョコギ)を巻いている。2010年6月 撮影 金東哲 (C)(アジアプレス)

 

「『人造肉』は大豆油の絞りかすを固めて乾燥させたものです。北朝鮮では肉が貴重品です。それで肉のような食感でタンパク質の豊富な『人造肉』が人気なんです。コツは油分を絞り過ぎないこと。ぱさぱさで素っ気ない味になります」
とは、三年前に脱北して日本に在住する李相峰(リ・サンボン)さんの説明だ。
7月初旬。アジアプレスの北朝鮮内部の取材パートナーの一人で、北朝鮮内部情報誌「リムジンガン」記者の金東哲(キム・ドンチョル)氏が、この「人造肉」を持って中国に出てきた。われわれ取材班の、かねてからのリクエストに応えてくれたのだ。

市場では、食品を扱う大抵の売り場で売られている。2010年6月 撮影 金東哲 (C)(アジアプレス)

市場では、食品を扱う大抵の売り場で売られている。2010年6月 撮影 金東哲 (C)(アジアプレス)

 

実際に触ってみると、幅5センチで厚さは3ミリ程度。ベルトのように巻かれている。かじってみると、なるほど大豆の匂いがする。味は形容が難しいが、乾燥麩(フ)のような...。
日本に持ち帰り周囲の人にも味見してもらった。すると中国人の友人が意外なことを言った。
「私は幼い頃これを時々食べましたよ。やはり中国も貧しくて肉がなかなか食べられなかった時代です。20年ぐらい前までは売っていたように思います」
中国でも『人造肉』と呼んだかどうか、記憶は定かでないと彼はいう。

もちろん平壌でも売られている。全国共通の庶民の食材のようだ。2008年12月 撮影 李ソンヒ (C)(アジアプレス)

もちろん平壌でも売られている。全国共通の庶民の食材のようだ。2008年12月 撮影 李ソンヒ (C)(アジアプレス)

 

ちなみに、この「人造肉」は1キロが3000ウォンほど。日本円で170 円ほどだ。
「北朝鮮のどこの市場でも売っていますよ。作るのは簡単だし人気の食材だから。水に戻して、野菜と炒めて食べるとなかなかいけますよ」
と金記者はいう。
大阪に持ち帰った「人造肉」で、今度炒め物をしてみようと思う。(石丸次郎)

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