何を継承するのか
そもそも「唯一の指導者」の座を継承するとはどういうことなのか。
継承するのは労働党総書記、国防委員会委員長(あるいは国務総理)、人民軍最高司令官などのポストだけではない。
1、金日成の祖父の代からの「革命的家系」という捏造された数々の神話を、引き続き伝承していかねばならない。
2、隠匿されているであろう莫大な金正日の個人資産は譲り受けるだろうが、それとともに、破綻した動かなくなった国家経済、対外債務も引き継がねばならない。
3、さらに、核・拉致などによる国際社会との緊張も、「世界最悪の人権蹂躙国」という不名誉極まりないレッテルも、お腹を空かせて怒りと不満を募らせた2千万の民も引き継がねばならないのだ。

これら<先々代からの負債>を清算、改善させていこうとするなら、これまでと違う新しい指導思想・理念を提示することが必須だと思われる。
それは国を開いて経済を改革し、人権に配慮する志向を持つ理念だ。
だが、あまりに硬直した社会・政治・経済システムによる自縄自縛の状態が、それを困難にしている。硬直性それ自体も、<負債>だといえよう。
このように、<負債>だらけの国の「唯一の指導者」の座を継承するというのは、茨の道をあえて進むようなものだ。

20100924_nk_1重要なのは公的なポストよりも「唯一の指導者」の地位
金正日は父親として、一族の安全保障を最優先に考えてきたはずだから、「政事」をさせて危険に晒すより、安全な場所で安穏に暮らせるようなポジションを模索してきたのではないかと思う。

そもそも、金日成と金正日のみが統治するという「唯一的指導体系」は、次の指導者を想定していない。
だが、もし金正日の病状が深刻になった場合、利権の維持拡大を狙う勢力が「唯一的指導体系」を堅持するという名目で、金ジョンウンを担ぎ続ける可能性はゼロとはいえないだろう。

しかしその場合も、後継者は、抱える物の重みに耐え切れず、やがて立っていられなくなるのは必至だろう。
繰り返すが、「ポスト金正日」とは、息子のうちの誰が後継者になるのかという矮小なことではない。
「ポスト金正日体制」とは、金正日に異変が発生した場合に、この「唯一的指導体系」が、どのようにとり扱われるのかという問題、すなわち、北朝鮮国家の在り方の根本がどう変わっていくのかという問題なのだ。(つづく)

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