隊列を組んで作業現場に向かわされる労働鍛錬隊の収容者。(2006年4月咸鏡北道 リ・ジュン撮影)

隊列を組んで作業現場に向かわされる労働鍛錬隊の収容者。(2006年4月咸鏡北道 リ・ジュン撮影)

 

解説3 悪名高き甑山(ジュンサン)教化所 その正体を探る(下)
石丸次郎

[3] 搾取と利権
大変な数の収容者が甑山教化所にいる。北朝鮮当局は、彼/彼女ら〈犯罪者〉にタダ飯を食わせているわけではない。いやそれどころか、収容者をこき使って膨大な農業生産をあげていることが、収容経験者たちの証言から明らかである。北朝鮮の拘置・収容施設全般に共通していることだが、それらはどこも一つの産業施設であり、収容者たちの労働力は統括する機関・組織の大きな経済利権になっているのである。
キム記者は次のように言う。

キム:(甑山教化所運営の)目的は経済、金儲けなんですよ結局。甑山を運営するためには人が必要だから、例えば西海(ソヘ)地区(平安南北道)にある保安省では計画(ノルマのこと)を作っているんです。順川(スンチョン)市では今年何人の囚人を出せ、平城(ピョンソン)市は何人出せ、また、どこそこの郡は何人出せと......。

労働力を循環させなければならないから。つまり、出所して行く人がいるから、新たにまた入って来る人がいてこそ、甑山教化所の運営ができるわけですよね。だからノルマが必要になるわけです。各地の保安署でも、地域の各分駐所(派出所)に、お前の所は一ヶ月に甑山に入れる囚人を×人送ってこいという風になっている。法律や規則に違反していない人なんていないから、ちょっと探して選んで送り込むんです(生きていくためには商行為に手を染めねばならず、誰しもが法に触れるの意)。保安省がノルマを作ってるんです。

石丸:はあ、なるほど。
キム:だから、甑山教化所を運営するためには、ずっと(人を捕まえることを)繰り返さなければならないんです。

石丸:保安省という機関が経済的な利益を得るために国民を捕まえて拘束して強制労働させているというわけですね。
キム:そうです。甑山だけではありません。他の教化所でも、セメント工場や炭鉱を運営している所もありますが、それも保安省のもの(利権)です。

甑山教化所は、証言にあったとおり広大な農場を経営している。そこで生産されるコメやトウモロコシ、豚肉、塩などは全国の保安員とその家族の配給に充てられる他、一部は市場に横流しされて現金収入となっている。正確な生産高や金額は不明であるが、推定七〇〇〇人という収容人員、耕地の広さからして相当な利権であることが想像される。

内部記者のリ・ジュンは〇五年から警察機構への取材を続けている。〇六年には、清津市の労働鍛錬隊の外観と、拘留されている人たちが朝から外の労働現場に連れ出される姿や、建設現場で働かされている様子を撮影している。リ記者は次のように拘置施設を巡る利権の構造について述べている。

「保安署の幹部たちは、自分の私的な用事にも拘留者を連れ出して使役させるし、他の部署の幹部にも〝貸し出し〟たりする。また土木や建設工事現場に日常的に拘留者を派遣しているが、甚だしきは工事現場の担当機関から人夫の派遣料をとることがあるのだ。だから労働鍛錬隊や教化所にはいつも人が一杯必要なのだ。」

このように、拘留施設の生産物や労働力が大きな利権となっているのは保安省だけではない。情報機関である国家保衛部が統括する管理所――いわゆる政治犯収容所でも、広大な敷地内に鉱山や工場、田畑を抱え、収容者を働かせて利益を得ていると、多くの脱北者は証言している。
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