11月の半ばごろから、北朝鮮内部の取材パートナーたちとの連絡がスムーズにいくようなってホッとしている。
9月から10月にかけての「正恩氏デビュー」の前後は、全国で厳戒態勢が敷かれていたため、豆満江を越えて中国に来ることはもちろん、電話連絡も、なかなかままならなかった。最近はメンバーの誰かと週に二、三回は電話で話をしている。

出てくる話は、不平不満のオンパレード。経済状況が一向に良くなる兆候が見えない時に、正恩氏が派手に登場したことで「あの親子は、結局のところ、自分の一族のことしか考えていない」とのたまる。不満が募りに募っているということだろう。
そんな通話の中でも、ひと際気を引かれたのは、「人事を巡る暗闘」に関する話である。

要するに、正恩氏への後継体制作りのために、この半年ほど北朝鮮の中枢では大幅な人事が断行されており、社会がざわついているというのである。まだ確認・精査中の案件なので公開できない部分も多いが、現時点で書けることを記したいと思う。
金正日総書記が08年夏に倒れ、「激痩せ」映像が公開された時、北朝鮮国内には激震が走った。金正日時代が終えんに向かうという冷徹な現実が突きつけられたからだ。

次は「いつ、誰が、どんな形で最高権力者になるのか」に、幹部たちの関心が一斉に向くことになった。「沈む太陽」よりも「昇る太陽」に気が向くのは当然のことである。
次期後継者を金正恩氏にしようというのは、権力中枢では既に内定していたのだろうが、金総書記の健康悪化に伴い、正恩氏への世襲後継準備は駆け足になった。

まだ20代で経験不足は明らかなのに、正恩氏は早くも9月に党と軍の要職に就くことになった。9月末の労働党代表者会は「最高指導機関を選出するため」として開かれ、正恩氏のお披露目があった。
問題は、この「昇る太陽」のために、前後して大かがりな人事が断行されたことである。
金総書記の妹の金慶姫(キム・ギョンヒ)、その夫の張成沢(チャン・ソンテク)の2人の身内と、崔龍海(チェ・リョンヘ)黄海北道党書記をはじめとする金総書記の古くからの取り巻きたちが、新しく党の要職に就いた。

軍部では正恩氏への後継のために功労があったといわれる李英鎬(リ・ヨンホ)総参謀長が大抜擢された。軍の階級が大将から次帥に昇進したほか、党の軍事部門の中央軍事委員会副委員長という、金総書記に継ぐナンバー2のポストが与えられた。
李英鎬氏は、最近の記念写真で金総書記と正恩氏の間にしばしば座っており、実質的に軍の最高実力者になったとみてよい。李英鎬系列の人間は「わが世の春」を謳歌することになるだろう。
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