第9回 アパート街はマーケットと化していた
アパート街の中でずらりと品を並べる大勢の女性たち。数百、いや千人はいるだろう。酒、タバコ、食品から衣類まで大量の商品を寒空の中売っている。北朝鮮メディアが絶対に伝えない平壌の日常の光景である。
(撮影 リ・ソンヒ 平壌・美林洞 2008年12月 01分41秒)

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美林洞は平壌の中心から東部に位置する。すぐ北側を流れる大同江には水力発電所があり、それに連なって北朝鮮の三大閘門(こうもん)の一つである美林閘門がある。山の方には湖があるなど風光明媚な土地が広がっており、幹部の別荘などもあるという。だが、総じて平壌の中でも未開発の最も落伍した地域の一つに挙げられる。

美林洞の寒空の下で、質素な防寒着姿で地べたに座ったり立ったりしたまま商売をしている女性たちを「貧しく可哀そう」な人たちだと見ると、北朝鮮社会を見誤ることになる。
彼女たちは統制が厳しい平壌にあって、経済的に自立して暮らしていくことができる唯一の方法である商売を、しんどいながらも喜んでやっているのだ。それは、働けば働いただけ実入りが増えるからであり、商売こそが豊かになれる唯一のチャンスだからだ。

彼女たちの働く姿は、一定の「経済活動の自由」を勝ち取って懸命に生きている姿だと捉えるべきだろう。
これまでメディアを通じて我々が見せられてきたのは、特別な平壌、あるいは例外の平壌である。
今回のリ・ソンヒの報告にある「一号道路」の外側の民衆の姿にこそ、平均的で平凡な平壌市民の暮らしが見えるはずだ。
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動画 (01分41秒)  (C)ASIAPRESS

大豆油の搾りかすで作った「人造肉」は平壌でも人気のようだ。キロ単位やメートル単位で取引される。温かいうちはそれなりの食感だというが、冷めて時間が経つと硬くなって食べ辛くなるという。

 

 

 

アパート街の中に拡がる露天の市場。公設市場ではないが、市場税は払わなくてはならないのだという。アパートの住民が、優先的に店を運営する。

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平壌東部の地図(写真)[google Mapより]
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平壌(ピョンヤン)――そこは、指導者金正日総書記が住む朝鮮民主主義人民共和国の「革命の首都」であり、首領故金日成主席の生家のある「聖地」である。それゆえ、平壌は常にソウルよりも美しく発展した都市でなければならなかったし、そのように見えなければならなかった。塵一つ無い広々とした通りと広場、整然とした高層アパート群、そしていつも笑顔で幸福そうに街を歩く清楚な身なりの人民たち......。
これまで外国メディアや観光客が訪れて目撃、撮影した平壌の姿も、こういった北朝鮮当局が伝えるものと大差なかった。外部の者には、平壌の中を自由に動き回るチャンスは微塵もなく、原則として金正日がお通りになる「一号道路」の内側の姿だけしか見ることが出来なかったからだ。
本誌記者のリ・ソンヒは、2008年の12月と2009年の1月、「一号道路」の外側に広がる平壌の日常を撮影することに成功した。外部世界の者がこれまで見ることのできなかった「意図的に隠されてきた」空間をお伝えする。

一号道路について
金正日が直接関わる事項に対しては、すべからく「一号」という接頭語が付される。例えば「一号行事」と言えば、金正日が直接参加する行事のことで、「一号列車」は金正日が乗る列車のことだ。「一号道路」とは金正日が通る道路である。これらの道路は、常に舗装され、きれいに整備されていなければならないことになっている。平壌の中心部を走る「一号道路」の内側のエリアは、どこを見ても美しく整備された光景だけが目に飛び込んで来るように設計されているので、平壌を訪れた外国人は、写真でもビデオでも大した制約なくそこを撮ることができる。

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