恵山市。鴨緑江の川幅は上流地帯ということもあり、数メートルから数十メートルと場所によって様々だ。2010年7月 中国側から。撮影:李鎮洙(C)アジアプレス

鴨緑江上流で中国と向き合う恵山市は昔から密輸が非常に盛んで、恵山市から密輸された中国製品は北朝鮮国内に広く流通している。取締り強化によって密輸が困難になり、中国製品の流通が滞って恵山市内の物価が上昇するような事態になっているという。
だが最近になって、早くもこの強硬な取締りにほころびが見え始めているという。

「鴨緑江の上流の方では、すでに『暴風軍団』自体が賄賂をもらって密輸の手助けをしている。賄賂の額はこれまでの倍以上だが、密輸の『安全保障代』として必要だ。でも密輸が減って物価が上がっていることから、密輸商人も十分な利益を得られている。彼らの間からは『一番勢力の強い『暴風軍団』に守られて、密輸品を独占販売できて儲かるのなら、統制が厳しくなった今の方がいい』という声も聞こえてくるほどだ」
と26日、崔氏は電話で語った。

◇続く「いたちごっこ」の解法は?
金正恩氏が後継者に内定してからもうすぐ一年。その間、中国との国境地帯には何度も中央から取締り専任部隊が派遣され、密輸や麻薬流通、脱北に代表される「非社会主義行為」の「撲滅」を図ってきた。しかしながらその実態は「いたちごっこ」に他ならない。今年になって恵山市に派遣された「特殊機動隊」も先の例にある通り、今や立派に密輸商人の片棒を担いでいる。

理由はいくつかあるものの、その最たるものは、北朝鮮の一般軍人は貧しいということである。アジアプレスがこれまで北朝鮮内部の映像を用い報じてきたように、軍隊の食糧事情は劣悪であり、将校ですら月給では市場でコメ1キロを買うのがやっと。だが、密輸などに関われば、賄賂として多額の現金収入にありつけるのだ。

このため、密輸が盛んな国境に配置されることは、北朝鮮の軍人にとっては「望ましい」ことで、「国境で数年勤務すればひと財産築ける」とは、北朝鮮では知らない人のいない常識となっているほどだ。だから派遣される新たな部隊も、すぐに「お金に取り込まれてしまう」のだ。

恵山市内から鴨緑江の上流方面に向かったところにある建物。スローガンには「絶世の愛国者 金正日将軍様 万歳!」とある。2010年7月中国側から撮影。撮影:李鎮洙(リ・ジンス)(C)アジアプレス

90年代、百万人を超える餓死者を出した「苦難の行軍」期以降、北朝鮮の社会は変わった。90年代からの配給途絶に直面した一般の住民は、市場での商売や荷物の運搬などのサービス業で稼ぎを得ており、配給制度でがんじがらめにされ市場活動が許されず、国にすがるしかない下級軍人や権力機関に所属する公務員よりも、努力すれば良い生活を送るチャンスがある。つまり、北朝鮮政府の土台を支えている軍人や保安員、権力機関にいる人間たちが社会の変化から取り残されているのだ。

国境の秩序を回復するために取れる方法は二つある。
一つは、国境警備につく者に、密輸などを黙認、あるいはほう助して得られる賄賂をはるかに上回る待遇を与えること。もう一つは、国民が合法的な経済活動を通じて生活の糧を得られるよう、国境を開いて人と物の往来を自由にすることである。
【李鎮洙(リ・ジンス)】
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