◆小名浜漁港
いわき市の小名浜漁港は三陸でも屈指の水揚げ量を誇っていた。例年ならカツオが水揚げされ、にぎわっているはずだったが、福島沿岸の漁は自粛が続いている。市営小名浜魚市場の人影もまばら、ここでも漁に出られない漁船が岸壁につながれていた。

シャッターが閉まったままの小名浜漁協直売所

 

市場前に停泊している底引き網船「第5天栄丸」。小名浜沖に繰り出し、底引き網でメヒカリやカレイ、タコなどを取ってきた。いつ漁が再開されてもいいように、小野敏夫さん(56)が船の点検と掃除を行っていた。
「漁の再開はいつになるかわかんねえ。いつまで続くのか、はっきりすれば動きようもあるんだけど......」
漁に出られなくても会社からは給料も出ていた。がれき処理の仕事がなくなり、それもいつまで出るかわからない。
「操業できないのだから、(東電からの)補償だけでは会社も資金繰りが大変だろうし、ずっと補償されるとも思えないしねえ」
とはいえ、年齢からいっても転職は考えられない。リストラされたら......。家族を抱えて不安の日々が続く。

◆「心まで汚染されてたまるか」
休漁の影響は水産加工業者や運輸業者、地元の鮮魚店、食堂などにも及んでいる。魚市場前には地元で取れた新鮮な海産物を売りにした食堂が軒を連ねている。その一つ、「みなと食堂」に入った。
魚はすべて北海道や青森などから取り寄せているという。地元産でないだけ、輸送費がかかり、値も張る。

「みんな泣く泣くやっている状態ですよ。やらないとさびれる一方ですから」
確かに、昼時だというのに客足はさっぱり。
「再開して1年になりますが、原発事故の風評被害は収まらず、お客さんは震災前と比べると3分の1以下ぐらいです。それでも土日に県外の人が来てくれ、『頑張って』という励ましが嬉しい」

地元以外から魚を取り寄せられる店はまだいいとも言う。漁港前の直売所はシャッターが閉まったままだ。その店には誰が書いたのか、こんな立て看板が掲げてあった。
「心まで汚染されてたまるか」
懸命に這い上がろうとする人たちがいる。その再生を阻むのは、収束のメドが立たない原発事故、汚染され続ける海......。それでも政府は原発再稼働を進めようとしている。やはり、他人事なのか。
(矢野宏/新聞うずみ火)