急遽平壌に戻らなければならなくなった兄。胸中はいったいどのようなものだったのか・・・・・・。映画「かぞくのくに」のヤン監督との対談第8弾。

日本に戻ってきた兄(井浦新)はかつての同級生たちと会うのだが言葉は少ない。(映画「かぞくのくに」より)

日本に戻ってきた兄(井浦新)はかつての同級生たちと会うのだが言葉は少ない。(映画「かぞくのくに」より)

 

◆日本の様々な変化を兄はどう受け止めたか
石丸:お兄さんは平壌の家族のもとに当然帰らなければなりません。日本にいた時とは違う新しい家族がある。でも、もう二度と来られないかもしれない日本に来て、もう会えないかもしれない人たちと会った。お兄さんは、いったいどんな思いだったんでしょうね。
ヤン:オッパ(お兄ちゃん)は何にも言わなかったけど、私も、どういう気持ちなんやろう、オッパは来なかった方が良かったんじゃないかなとずっと思ってました。
(帰国者には)アル中になったり占いばかりしてる人もいる。「帰国した当時の日本は在日が幸せになれなかったやないか」って自分に言い聞かせたとしても、日本に来て同級生に会ってみると、子供を留学させたり小さな会社の社長になってたり、いい車乗ってる人もいたわけです。「俺らなんやねん」って感じた部分もあったと思います。

石丸:およそ30年ぶりに戻った日本はいろいろ変わっていただろうし、昔の友人たちも、皆一人前になっていたはずですから、「俺も帰らずに残っていたら...」と考えないはずはないですよね。
ヤン:時計が止まったまんまのような(北朝鮮の)システムの中にまた自分は帰って行くわけですから、知らない方が楽っていうのもあったはず。オッパにとって、これ結構残酷やなあと思いました。平壌に帰った後で、あの日本のニ週間を、オッパはどう思ってたのかな。私には想像できないんですが...。

石丸:ご両親と妹にとっては、かつて一緒に日本で暮らした永遠の息子であり永遠のオッパでも、オッパ自身は平壌に自分の家族と棲家があって、そこは落ち着く場所でしょうし、北朝鮮にも会いたい人たちがいるはずですね。
ヤン:そうそう。それはそうですね。

石丸:必ずしも日本の方が絶対的にいいとは言えない。
ヤン:それは言ってました。「日本に残ったからといって、絶対幸せになるという保証もないし、北朝鮮でがんばるしかない」、そんなことはよく言ってましたね。プライドもあるでしょうし。

石丸:なるほど

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