高い放射線が測定された庭先の土壌を指す裏澤さん

 

◆健康より地価優先
さらに、地表から1センチの高さでは毎時30マイクロシーベルトを振り切り、市職員のサーベイメーターでは測定不能となった。後日、高性能の放射線量計測器で測定したところ毎時53マイクロシーベルトもあった。
裏澤さんが渡利地区に移り住んで半世紀になる。住居の背後には弁天山があり、静かな景観が気に入っていた。ところが、その山が震災後、思わぬ災害をもたらすことに。

渡利地区の線量調査に取り組んできた神戸大学大学院の山内知也教授によると、この地区は弁天山など山林を抱えているため、雨のたびに汚染された泥や落ち葉が水路などに流れ込み、それが乾燥してさらにセシウムが濃縮されているという。
裏澤さん宅の横の水路からあふれ出た汚染水が庭に流れ込み、柿の木から落ちてきた雨水と合流する。「上から土をかけていますから以前ほどではありませんが、ここです」と、裏澤さんが指さした土壌にガイガーカウンターを近づけると、高さ1㍍で毎時2・2マイクロシーベルトを記録した。

裏澤さんは次男夫婦と同居しており、小学5年生と5歳の孫がいる。次男は、妻と子ども2人を市内の放射線量が比較的低い親戚宅に避難させることを決意。自宅近くの小学校への通学にはバスを使わせ、帰りは次男が自家用車で親戚まで送るという生活に踏み切ったこともある。現在は茨城県まで週末避難している。
「渡利地区の子どもや妊婦を避難させるよう要望書を市に提出したが、全く聞く耳を持たないのですから」と浦澤さんは言う。

地元選出の市会議員からも「そんな指定を受けたら地区全体の地価が下がる。そうなると、借家やアパートの経営者が困る」と言われたという。
裏澤さん宅の除染が行なわれるのは来年3月に入ってから。それまでの間、高い放射能の土壌はむき出しになったままだ。
「人の命や健康よりも、金や経済優先なんですよ」という裏澤さん。まさに、この国の縮図を見ているようだ。(つづく)
【矢野 宏/新聞うずみ火】