◆沈黙する「ニコンムラ」
しかし、ニコンの会社幹部・ニコンサロンスタッフ・弁護士など、「ニコン側の人たち」の不可解な説明や不誠実な対応は、本当に彼らニコン特有のものだったのだろうか?
この問題に「沈黙」をした、強いられた人たち、「面倒なことに巻き込まれたくない」と思っていた日本人の"代表者"と見るべきなのではないか、という気もしている(ニコンの対応や説明を免罪するためにこれを言っているのではないことを強調しておく)。

写真表現に携わっている者としてニコンの対応は絶対に看過できないと、JVJA(日本ビジュアル・ジャーナリスト協会)会員の森住卓や元共同通信カメラマンの新藤健一らは、この問題を知った当初から抗議を続け、周りの写真家にも対応を呼びかけた。だが、それらへの反応は薄く、むしろ写真表現に携わっているから逆にニコンに対しては言いにくいという人が予想以上に多数いることを知った。

ニコンサロンは写真家たちにとっては権威あるギャラリーであり、いわば発表媒体の一つである。ニコンから後援や協賛を受けて、様々な写真家が関わる企画展示も開かれてきた。写真業界というよりも、写真家とニコンの関係性は歴史的にも金銭的に も深い。ベテランの報道写真家やフォトジャーナリストの間でも、新宿ニコンサロン中止問題に対して「沈黙」を貫いた人たちは少なからずいた。

特に、社団法人「日本写真家協会」(田沼武能会長)に対しては、森住や新藤らも同協会理事らにニコンサロン中止問題の対応を何度か迫ったが、同協会としては「対応しない」「ノーコメント」という結論にいたったという。

本来ならば、同協会がニコン側と安世鴻の間に入って仲裁・解決に向けて動くべき問題だった。ある写真家が写真機器メーカーから被っている表現の妨害・被害を、写真家団体が何も対応しないのでは、"不作為犯"としか言いようがない。
こうしたニコンと日本の写真家たちとの関係性を見ていると、「原子力ムラ」のような電力業界とマスメディアとの関係性に近い、「ニコンムラ」が写真界に形成されていることに驚きを禁じ得ない。

しかし、そうしたニコンとの関係性とは別に、「慰安婦問題が絡んでいるので、それには関わりたくない」「面倒なことに巻き込まれたくない」という人たちは潜在的にはもっとたくさんいるだろう。恐らくこの層が最も多数派だ。
新宿ニコンサロンでの写真展中止が発表された直後、海外メディアはCNNなどが真っ先に取材・放送した。英国の写真家たちもニコンに抗議する署名活動を独自に始めた。海外メディアのその反応に比べて、日本のマスメディアでは、朝日新聞が継続的に取材・報道した他は、極めて小さな扱いか、何も報じなかった。(敬称略)
(続く)

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写真家・安世鴻氏 写真展とインタビュー(動画・6分)大阪
写真家・安世鴻氏 写真展と記者会見 ニコンへの抗議文書手渡し(フル動画・58分)大阪
~この記事は、2012年9月に発売された『検証・ニコン慰安婦写真展中止事件』(産学社 / 新藤健一・責任編集)からの転載です。