◆権威発揚のため軍指導の演出も、国際社会の印象悪化の副作用

民が為政者を評価する時、重要視するのは何か?やはり、なんといっても暮らしである。大義名分やスローガンや理念で腹は膨れない。生活が良くなれば、政府や指導者がよくやっていると考え、腹ペコを強いられれば評判は落ちる。どこの国の民衆もそんなものである。

(参考写真)収穫後の畑で落穂拾いをする老人女性。北朝鮮では秋になるとよく見られる光景だ。2012年11月平安北道新義州(シニジュ)市郊外。平安北道在住のアジアプレス取材協力者が撮影。(アジアプレス)

 

金正恩体制が実質的に発足して約一年が経った。国内の評判、民衆の評価はどうかと言うと、これが相当に厳しい。理由はいろいろあるのだろうが、やはり生活悪化のためである。

北朝鮮の住民の大半は、国家からの食糧配給が90年代からずっとない中、商行為や闇の賃労働で現金を得て自力で食べてきた。ところが、金正恩体制に なってからというもの、移動の制限や政治行事への動員など、政情安定のための統制強化策によって、全国的に商売不振、つまり「景気が悪化」して、人々は現 金収入を減らしているのだ。

国家が責任を持つべき電気、水道、鉄道などの社会インフラも、麻痺が広がっている。特に電気は、昨秋以降、「一秒も来ない日が珍しくない」という不満の声が北朝鮮各地の取材協力者たちから届いている。

首都平壌の大同江区域に住む取材協力者は次のように述べた。
「昨年末まではよく来ていた電気も、3月から一日に3-4時間程度しか来ない。水道が出るのも一日一回だけだ」

鉄道は、正常なら二日で行ける行程に二週間かかることも珍しくない。総じて「正恩時代になってもっと悪くなった」という評価である。

こうした不満・イライラもあってだろうが、住民たちが金正恩氏を「半人前の若造」扱いする風潮が、執権一年経ってもなくならない。取材協力者たちは 「ハタチの小僧」(実際は30歳)「セッキ」(ガキ)という言い方をやめない。中国にビジネスや親戚訪問で合法出国してきた人たちに会っても同じようなも の。
「アレは、まだ何にも知らないから」という言い回しが控えめな方か。

そのような世間の評判を気にしてのことだと思うが、北朝鮮当局は金正恩氏の権威付け、<一人前>というイメージ作りに躍起になってきた。例えば、李 雪主(リ・ソルジュ)夫人を行事に帯同する映像や写真を度々公開するのも、「家庭持ちの立派な大人」を強調する意図があると思われる。

官営メディアの金正恩氏の扱い方で際立っているのは、権威付けが軍事面に偏っていることである。例えば、金正恩氏の呼称・肩書きであるが、まず枕に 「敬愛する」があった後、「最高司令官同志」、「元帥様」と呼ぶのがほとんど。日韓のメデイアでよく使う、(朝鮮労働党)第一書記、(国防委員会)第一委 員長という肩書きはまず出てこない。故金正日氏の場合は、「親愛なる」「敬愛する」などの枕の後に、「将軍様」という軍事称号か、「指導者」と称されるこ が多かった。金正恩氏が官営メディアで「指導者」と呼ばれることは稀である。
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