◇規制基準の目的とは
R:本来、規制ではなく、安全と呼ぶべきではないでしょうか。規制と言えば、これだけやっていれば大丈夫ですよ。ということになりますが、安全基準というとこれだけやっていれば、絶対事故にはなりませんという意味合いになると思うのですが。

小出:私は反対だと思います。安全基準というのは存在しない、ということが福島の事故で示されたのですから。どんなに安全といってお墨付きを与えたところで、そんなものをもろともしないで事故は起きるわけです。絶対安全ということは言えないし、安全基準はもう作れないと認めたからこそ、代わりに規制基準を作ったのだと私は思います。

R:そうまでして規制基準なるものを作る目的とは?

小出:安全基準がないのだとしたら、ではどこまでなら受け入れることが出来るのかという社会的、政治的な合意としての基準が必要であり、それを規制基準と呼んで、今彼らが作っているわけです。でも、私自身は福島の事故の原因すら分かっていない時に、そんな新しい基準が出来るわけがないと思いますし、新しい規制基準というのは正に原子力発電所を再稼働させたいという目的で作ったと思っています。

R:要するに、原発を再稼働させるという前提で、新しい規制を決めているのですね?

小出:はい。再稼働のために一つの道具なのです。

R:そうすると、規制庁も原子力マフィアに使われている道具という見方も出来るわけでしょうか?

小出:見方というか、その通りなのです。日本というこの国には、原子力基本法という、原子力の一番の基本を決めている法律がすでにあります。その原子力基本法には、平和目的に限ると書いた上で、それ自体嘘だと私は以前から発言していますが、原子力を進めると書いてあるのです。

R:つまり、規制といっても、制限することが目的ではないと...。

小出:はい。この日本では原子力を進めるということが大前提になっており、これまでにあった原子力委員会も原子力安全委員会も、今回できた原子力規制委員会も、全ては原子力を進めるという大元の下での組織なのです。ですから、原子力をやめさせるとか、絶対安全な基準などないからこれは難しいとか、決して言ってはいけないのです。やる、という前提で、ではどうやったら進めることができるか、そのことしかないのです。

R:逆に原子力をやめる、となるとそこの法律に触れるということになってくるわけですよね。

小出:元々、原子力委員会という組織のトップは近藤駿介さんという、東大の教授をやっていた人ですけど、彼などは、「原子力委員会というのは、原子力基本法の下にある委員会であって、原子力を進めるというのが職務なのだ」と。「だから、原子力を反対するようなことをやったら、職務に反する」という発言をしたこともあるほどです。

福島第1原発事故の全容すら解明されていない中、再稼動を大前提とする組織によって、新たな規制基準のもと、安全審査が進められる。そのようなベクトルで、果たして福島の事故が収束する日は訪れるのだろうか。

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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