◇中国からの外国文化・情報の無秩序な流入を警戒か
保衛司令部による検閲は全国各地で行われ、北朝鮮の住民にとっては珍しくないが、恵山市の住民とっては特別だ。事情に詳しい同市出身の脱北者リム・チョルス氏(仮名)は「悪夢とも言える記憶」についてこう語る。

「軍を対象にした情報機関である保衛司令部が、北朝鮮住民の間で知られるようになったのは、90年代半ばに恵山市で大々的に行った検閲がきっかけでした。初めて一般住民の検閲に保衛司令部が動員され、当時、多くの住民が山奥の僻地に追放される一方、住民10余人が公開銃殺されました。特に、苛烈な調査を行う中で死亡した『犯人』の亡骸冷凍保存しておいて、後に死体を引っ張り出してきて『銃殺』したのは衝撃でした。住民たちは『死人の口をも開かせる』と保衛司令部に対し恐れを抱いたものです。その後も恵山市では何度か保衛司令部による検閲を受け、たくさんの住民が処罰を受け、また処刑されました」。

昔も今も恵山市が「狙われる」理由は、中国への脱北、密輸が盛んであることに加え、ここ数年、外国の情報・文化流入の窓口となっている点が挙げられる。北朝鮮当局は、住民が韓流ドラマなどを通じ韓国に憧れを抱くことはもちろん、「最高尊厳」である金正日、金正恩氏ら指導者たちの実態を暴く韓国の報道番組に接し、指導者への反感が増大するのを極度に警戒している。

※参考記事 「芸能人銃殺事件の核心は「政治ビデオ」か(1) 金一族扱った韓国の番組が流入し政治問題化」

恵山市では、この10月末にも『不純録画物』を中国から不法に搬入し、流布させた罪で銃殺刑が執行されたと、現地の別の取材協力者が報告してきている。

今回の「保衛司令部」による公安機関に対する集中検査は、韓国をはじめとする外部世界との情報往来の遮断、脱北行為の根絶を目指すため、腐敗して機能を低下させている公安機関を綱紀粛正することが目的だと思われる。封鎖体制に風穴が開いた状態は、体制維持に危険であり看過できないと、金正恩政権は判断しているのだろう。

前出の取材協力者は、保衛司令部による検閲が今後、他の国境地域に拡大するだろうと予測する。北朝鮮国内で新たに吹き荒れる「統制の嵐」が、どのような方向に向かい、どんな影響を及ぼすのか注目される。

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