北朝鮮のナンバー2、張成沢氏粛清のニュースは世界に衝撃を与えた。北朝鮮が今後どこへ向かうのかが憂慮される中、改めてこの国の核開発への懸念も 取り沙汰されている。北朝鮮は、2013年2月に三度目の核実験を行ったと発表したが、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんは、北朝鮮の核兵器開発は うまくいっていないという疑念を持っているという。小出さんの見立てについて詳しく解説してもらった。(ラジオフォーラム)

ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん(中央正面)

ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん(中央正面)

◇北朝鮮が取り出せるプルトニウムはごくわずか

ラジオフォーラム(以下R):2013年2月15日に北朝鮮が核実験を強行しました。これに対して国連安保理で制裁決議が上がりました。核兵器保有 国であるアメリカ・中国・ロシアといった常任理事国が、自国だけ核兵器を持って他国に持つなというのは非常に不平等なことですが、かといって北朝鮮が核兵 器を開発するということは大変憂慮されることであります。

小出:元々、朝鮮民主主義人民共和国の核疑惑が起きたのは1992年のことでした。その当時にIAEAなどがさ んざん査察等を行いました。核兵器を製造するためには二つの道筋があり、それはウランを使う道筋と、プルトニウムを使う道筋です。広島に落とされた原爆は ウランを使って作られていましたし、長崎に落とされた原爆はプルトニウムという物質を使って作られていました。

朝鮮民主主義人民共和国の場合には、核分裂性のウランを濃縮するという技術も工場もありませんでしたので、もし、あの国が核兵器を作るとすれば、プルトニウムで作るしかありませんでした。

R:プルトニウム型の核兵器を作る能力はあるということですか。

小出:ただし、朝鮮民主主義人民共和国には、プルトニウムを作り出すための道具、つまり原子炉は、たいへん小型 の、小さい実験用のものしかなかったのです。熱出力という原子炉そのものの大きさでいうと、2万5千キロワットしかありません。日本には、電気出力100 万キロワット、熱出力で言えば300万キロワットの原子力発電所が何十基もあります。朝鮮民主主義人民共和国が持っていた2万5千キロワットの原子炉とい うのは、日本の原子力発電所の100分の1以下の出力ということになります。もう本当に話にならないほど小さな原子炉しか持っていなかったのです。

その原子炉をいくら効率的に動かしたとしても、作り出せるプルトニウムの量はたかが知れています。おまけにプルトニウムというのは原子炉の中で作っ ただけではだめで、それを使用済み燃料の中から取り出す再処理という作業が出来なくてはいけません。それは猛烈に危険な作業であり、大変な被曝作業であ り、環境汚染をそこら中で引き起こしてきた作業です。それを行うためには、いわゆる再処理工場という工場が必要なのですが、1992年の時点で朝鮮民主主 義人民共和国には再処理工場がなかったのです。つまり、プルトニウムを取り出すことすらできないという状態ですので、あの国に核兵器があるというのは、私 はそれこそあり得ないことと思いまして、そのように発言を続けてきました。

R:それは90年代前半のことですが、北朝鮮は2006、09、そして今年13年に核実験をやったと主張しています。時間でいうと14年の歳月が経っていますが、この間に開発が進んだとは考えられませんか。

小出:それはあるかもしれません。放射化学実験室という非常にプリミティブ(初歩的)な再処理工場が90年代初めに建設途上であったわけで、それをその後も建設を続けてひょっとしたら、完成させたということはあるかもしれません。

R:その場合でも、大したプルトニウムの量ではないということですか。

小出:朝鮮民主主義人民共和国には本当におもちゃのような工場しかありませんので、プルトニウムを取り出せたと しても、本当に知れている量でしかありません。2013年になって、ストックホルムにある国際平和研究所というところが2013年度版の年鑑を出しました けれども、そこでも朝鮮民主主義人民共和国が持っている核弾頭の数はせいぜい6発から8発だとされています。
とはいえ、朝鮮民主主義人民共和国と未だに戦争状態、つまり休戦協定しか結んでいない米国という国は7800発の核弾頭を持っていることを考えると、戦争をしている当事者同士の数の比較でいうなら、もう話にならないほど小さなものしか持っていないと言えるでしょう。

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