◆事故業者が理事の「第三者機関」

さらに調べると、驚くべき事実が明らかになった。

アンサーの2人のアスベスト診断士のうち、1人は同社取締役なのだが、じつはこの人物が中部アスベスト診断協会の理事だったのだ。

事故を起こした当人が理事を務める団体に「第三者機関」として原因究明を委託して、いったいどのように調査の中立性が確保されるというのだろうか。

アスベストを漏えいさせた原因究明の調査業務で理事を務める団体まで儲かることになってしまう。事故を起こせば何度も仕事が受注できて儲かるというのでは、飛散事故はなくならない。

それ以前に、アンサーは自らが起こした事故で原因究明ができないどころか、事故の責任すら認めていないのだ。

同協会のホームページには協会の目的の1つとして、「適法な対策のコンサルティング」を掲げているが、協会理事が違法工事をしているのだ。

協会の理事でさえ「適法な対策」ができていないお寒い実態である。そんな団体に調査委託をしてまともな結果が期待できると考えるのは正気の沙汰とは思えない。

むしろ協会が自主的に徹底した原因究明をしたうえで、再発防止策まで含めて公表すべき案件だろう。だが、協会のホームページには今回の事故のことはいっさい記載がないままだ。

2月上旬、発注元となる市交通局の松井氏に改めて質すと、「(事実関係は)承知しています。まだ契約しておりませんので。(契約締結となれば)そう指弾されても仕方ない」と答えた。

さすがに市側も事故業者と同協会の関係を知り、この発注はあきらめたようだ。
~つづく~
【井部正之】

※初出「名古屋市地下鉄アスベスト飛散事故で続く混乱 原因究明めぐり異常な工事委託が浮上」『ダイヤモンド・オンライン』2014年2月13日掲載に加筆修正

 

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