● 政府の情報統制も明らかに

R:朝日新聞による吉田調書の公表で、政府による情報統制があったことも明らかになりました。事故当時、3号機 の格納容器内の圧力が高くなったために、高濃度の放射性物質を大量に含んだ気体を外気に放出する「ドライベント」を準備せざるを得なかったとのことです。 しかし当時、この格納容器内の圧力上昇について公表することを政府が規制したことが、この調書の内容で明らかになりました。

小出:はい。当時、事故の進行の最中で日本の政府が恐れたことは、住民たちがパニックに陥るということだったと 思います。住民たちを被曝から守るということよりは、むしろパニックを起こさせないことが日本政府の基本的な方針だったように、私には当時も見えました。 今、ふり返ってみてもそうなのだと思います。

そういう時には、住民がパニックを起こすような情報というのは、できる限り抑えなければいけないということになるわけです。実際に当時も彼らはSPEEDIという計算コードの結果を隠したりして、とにかく住民にパニックを起こさせないように行動していました。

R:完全に情報統制をして知らせないまま高濃度の放射性物質を含んだガスを放出しようとしていたわけですね。結果的には、3号機の原子炉建屋で水素爆発が発生したため、ドライベントを行わなくて済みましたが、あの時に実際に行っていたら大変なことになりましたよね。

小出:はい。ただ、それよりもむしろ、例えばSPEEDIの情報を政府が隠してしまったために、逃げることもで きないまま大量の被曝をしてしまった人たちがいたことです。やはり情報というものは限りなく公表して、住民たちにも知らせた上で、どんなことができるのか を選んでいくべきものだと私は思います。

R:この吉田調書も、もともとは公表されることを前提にしていなかったものですね。

小出:はい。お亡くなりになった方に矢を放つようで申し訳ありませんが、吉田さんは福島第一原子力発電所の所長 だったのです。幸いなことにというか、大変豪胆な気質を持たれた方で、最後まで自分の責任を全うしようとして戦って下さった方でした。

吉田さん自身は優れ た方だと私は思うけれども、それでもきちんとした責任のある立場の人なわけですから、その人が公表を望まなかったから公表しない、ということはあり得ない と思います。

現在、たくさんの人々が被害者として存在しているわけですから、責任のあった立場の人の調書として、きちんと公表すべきだと思います。

事故当時の貴重な証言記録である「吉田調書」が朝日新聞によるリークとして公表された。しかしそれは本来、調書の保有者である政府事故調査委員会によって 公にされるべきものではなかったか。当事者しか知りえない事実が隠されたまま、事故の原因究明も終わらぬうちに、再び原発推進の道が採られているのが、今 のこの国の姿である。

 

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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