人気漫画「美味しんぼ」が5月に休載し、現在も再開の話を聞かない。発端は、この漫画の主人公で新聞記者の山岡士郎が福島第一原発事故を取材するという設 定の「福島の真実編その22」において、主人公の鼻血や疲労感が放射線被曝によるものとして描かれたことにある。この描写が大きな物議を醸し、連載休止に まで発展した背景について、京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さんに聞いた。(ラジオフォーラム)

◆ 鼻血は事実。なぜ大騒ぎになるのか

京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さん

京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さん

ラジオフォーラム(以下R):実際にこのシーン、漫画で読まれて率直な感想はどのようなものでしたか。

小出:そのシーンというよりですね、この「美味しんぼ」がとても素晴らしい漫画なのだなと、まずはそう思いました。

今回のテーマでは福島の原発の事故を取り上げて下さっています。その中で、苦難のどん底に落とされた被害者の方たちがたくさんいるわけですけれど も、その方々に寄り添おうとする姿勢がはっきりと出ていて、こういう漫画が今、存在してくれているということをありがたく思いました。

その上で鼻血のシーンですけれども、要するに事実として描いたというだけのことであって、何ら問題はないはずだし、どうしてこんなことが大騒ぎの原因になるのか、それこそが私にとっては不思議でした。

R:前福島県双葉町長の井戸川克隆さんもこの漫画の中で、「福島では同じような症状を訴える人が大勢いますよ」と発言し、井戸川さんご自身も鼻血が出ていると述べています。

小出:そうです。井戸川さん自身も何度も鼻血を出しているわけですし、その事実を写真でも示してくれています。もちろん、多くの人が鼻血を出しているわけで、私自身もたくさんの人から鼻血が出たという話を聞いています。

R:なるほど。にもかかわらず、おまけにこれは漫画ですよね

小出:はい。でも、漫画だから許されるということはないでしょうから、きちんと議論はしていいと思います。けれども、鼻血が出た、あるいはそれを漫画が取り上げたからといって一体何なのだと私はまずは思いました。

◆ 背後に原子力ムラの影?

R:石原環境大臣を筆頭にいろいろな政府の要職の方が「放射能と鼻血の因果関係は一切ない」と述べるなど、猛烈なバッシングが展開されました。やはり背後に、原発を再稼働したいという原子力ムラの影が見え隠れするのですが。

小出:もちろん、そうだと思います。しかし、石原さんにしても官房長官の菅さんにしても、いわゆる自民党の要職 にあるわけです。そして、福島の事故を起こした責任は一体誰にあったのかと言えば、福島の原子力発電所が安全だとしてお墨付きを与えた自民党にこそ、私は 責任があったと思います。それなのに彼らは何の処罰も受けていません。

そして謝罪もしないまま、単に鼻血が出たという事実を描いただけの漫画を攻撃しているわけです。まことに異様なことだし、多くのマスコミも、何か鼻血が出たと描いた漫画そのものがおかしいというような風潮に加担したわけで、随分おかしな世界だなと私は思います。

R:そうですね。事実、自民党の国会議員の中には、国会の場で鼻血について質問をされておられる方までいらっしゃったわけですからね。

小出:そうです。事実、鼻血は出ているわけですから。そんなことはただ事実であって、それが一体どういう原因で 出たのかということを科学的に突き止める責任は、まずはその事故を引き起こした自民党にこそあるはずなのです。けれども、ただひたすら鼻血と被曝の因果関 係を否定するという行動に出てきたわけですね。

私はおかしいと思いますが、彼らとしては日本中の原子力発電所を再稼働させたいわけですし、一刻も早く福島第一原発事故のことを忘れさせてしまいたいわけですから、何としてもこういう被害を否定したいと思ったのだと思います。
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