◆建屋カバーの撤去だけで数年

R:今後はずれ込むと言っても、廃炉のプロセスはどう進んでいくのでしょうか。

小出:まず、使用済み燃料プールの件を少し話しますが、一番問題だったのは4号機の使用済み燃料プールでした。建屋内の使用済み燃料プールが埋め込まれている階まで爆発で吹き飛んでしまっていて、半分壊れた建屋の中に使用済み燃料プールが宙づりになっているような状態でした。

事故当時、4号機は定期検査中だったために、炉心にあった燃料の全てがプールの底にあったのですが、それが崩れ落ちるようなことになれば、もう東京 すら避難しなければいけないと、当時、原子力委員会の委員長だった近藤駿介さんが報告を出したというぐらい危機的な状態だったのです。なんとかそこを早め に始末しなければいけないということで、2013年11月から、隣にある共用燃料プールという所に使用済み燃料の移送を始めまして、2014年11月4日 にようやく作業を終えました。

R:無事に終わってよかったですね。

小出:私は、本当にほっとしました。ですから、この件に関して言う限りは、東京電力はよくやったと私は思います。ただし、使用済み燃料プールは、1号機、2号機、3号機にもあります。そちらの方は、建屋の内部が猛烈に放射能で汚れていますので、近づくことすらできないわけです。

それでも、どうしてもやらなければいけません。使用済み燃料プールの中にある燃料だけは、なんとしても移動させなければいけませんので、これから1 号機、3号機、2号機の順番で、作業を進めることになっています。そのためにはまず、1号機にわざわざ取り付けたカバーを撤去するしかありません。2号機 の原子炉建屋はまがりなりにも形が残っているのですが、それも場合によっては撤去せざるを得ないかもしれません。こうしたカバーや建屋を撤去するだけで、 一体何年かかってしまうのだろうかと、私は心配です。でも、それをやらなければ、熔け落ちた炉心、デブリと呼ばれている物の取り出しにも全く手が付けられ ないわけですから、一歩一歩進めるしかないと思います。

R:なるほど。原発は安全神話だけではなくて、廃炉にまつわるもろもろも、フィクションというか神話に満ちている感じがしますね。

小出:要するに、東京電力や国は、とにかく自分たちに少しでも都合のいいように考えて工程表等を作ってきたわけです。そんなもの実現できる道理がありませんので、これから困難はますます大きくなっていくと思います。
人類の誰も経験したことがない事故を起こした原発の廃炉作業。スリーマイル島原発やチェルノブイリ原発は1基だけだった。チェルノブイリはまだ廃炉作業が 何年かかるか見通しが立っていない。こうしたことから考えても、今後、福島第一原発で何が起こるか、誰にもわからないというのが実情だろう。

 

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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